影浦くんは、人が多い所が苦手だ。何でもそのサイドエフェクトによって他人が自分に向ける感情が刺さるように伝わってくるらしい。なにそれしんどくない?その話を聞いたときに思わずそう尋ねたら、しんどいというよりもイライラするらしい。なるほど。



「お前なんであんな余所余所しい態度とるんだよ、あぁ?」
「そ、それは……」

ただいま影浦くんは絶賛お怒り中である。彼がイライラしてるのはまあよくあることなのだけど今日の様子はイライラ、というよりもムシャクシャ、という感じだ。

「鋼にも言われたんだよ。何かあったのかってよー。ったく、余計なお世話だっての」
「鋼くんにも心配かけちゃったかなあ」
「呑気な事言ってんじゃねえよ、俺は最近のお前の態度が気に入らねえ。コソコソ逃げやがって」
「いや…ごめん…」

影浦くんがグイッと顔を近づけてきて、急激に距離が縮まる。この距離は、だめだ。
わたしと影浦くんは恋人とかそういう関係ではなくて、でもたぶん影浦くんはわたしと同じ想いでいてくれていると思う。そして恐らくお互いそれを自覚している。そんな曖昧なようで心地良い距離感を保ってきたものだから、まさか影浦くんがそれを壊してくるとは思わなかった。でもそのキッカケを作ったのはわたしだ。

「やだ、近いよ」
「じゃあ理由を言え。言うまでこのままだ」
「なんで…」
「お前に理由も聞かずに避けられたら堪える。言え」

いつもより低い声で唸るように言ったから少しばかり怯んだけど どのみちわたしにはもう逃げ道がなかった。それになにも言わずに避けられるなんて確かに悲しい。影浦くんにそんなことされたら、嫌だ。




「あんな態度とって、ごめん。わたしが勝手にどんどん影浦くんを好きになっていくから… それが影浦くんには口にしなくても伝わっちゃうから、恥ずかしかったの」

どうすればいいのかわからなくて逃げた。そう言うと影浦くんは、呆れたようにため息を吐いた。そしてその細いのに骨ばった大きな手をわたしの頬に添えた。

「…俺のこと嫌になったのかと思った」
「そんなこと…」
「お前からの感情はチクチクしないしイライラもしねえ。なんつーか、こう…あったまるんだよ」
「あったまるって。影浦くん可愛い言葉使うね」
「黙ってろ」

その手を自分の方に近づけてそのまま影浦くんの唇とわたしのそれが重なった。初めて、だった。

「俺もなまえが好きだ。だからもうあんな態度とるんじゃねーぞ」

ありったけのわたしの想いが伝わるように、しっかり目を見てから彼の背中に手を回した。


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