わたしはかわいいものが好きだ。
お洋服もアクセサリーもコスメも、かわいいものについ目が行ってしまう。ボーダーの隊員である以上、普通の女の子のように休日に友達とショッピングをしたり小洒落たカフェでコーヒーを飲むなんてことは滅多にできないのが難点だけれど、それはそれだ。
日も沈んだ時間。防衛任務が終わり隊の仲間たちと少しばかり談笑をしたのちに皆はそれぞれ予定があったようで1人また1人と解散し、最終的にわたしだけがラウンジにぼんやりと立っていた。
わたしもそろそろ帰ろうかな。
鞄から最近買った黒いケーブルニットのマフラーを取り出し、ぐるりと首に巻いてから外へ出た。
「あ、カゲ」
本部を出て少し歩いた頃、目の前に少し猫背になったバサバサ頭を見つけた。カゲはこっちを振り向いてよお、と少し笑った。
「鼻声じゃん、風邪ひいた?大丈夫?」
「あーそうかもな。大したことねーよ」
「なんとかは風邪ひかないって言うのに」
「うるせえ」
キッとこちらを睨みつつも相変わらずの鼻声のせいでちっとも怖くない。おまけによく見たらカゲのやつ、季節に見合わず薄着な気がする。そんなんだから風邪ひくんだよ、なんていうお叱りは風邪が治ってからにしてあげよう。
「寒いでしょ。マフラー貸してあげるー」
わたしの首を温めていたそれをすぽっと頭から抜いて、強引にカゲの首へ巻きつける。黒い髪に黒い服に黒いマフラー。真っ黒だ。
「おい!大したことねーっつってんだろ。それにお前はどうすんだよ」
「んふふ、カゲのそういう優しいとこ好き。でもわたしは大丈夫だよ、タートルだしカゲと違って厚着だから」
抵抗していたカゲはチッと舌打ちをしたのちに観念したのか大人しくなった。優しいし、可愛いと思う。
「普通こーいうのって男が女にするもんだろうが。バーカ」
頭に拳骨を落とされたけど力加減をしてくれているからちっとも痛くない。ちらりと彼の方を見ると耳が真っ赤に染まっていた。寒さのせいなのか照れているのかわからないけれども、やっぱりカゲは可愛いなあ。