気付いたら朝だった。
そのことを認識することにすら多少の時間を要したわたしの脳は現在のところ、完全に寝起きのそれである。うまく回らない脳をフル回転させるように今の状況を確認する。
まずここは、カゲの部屋だ。
昨日バイトが終わってからここへ遊びに来て、前から見ようと言っていた洋画のDVD(彼はさほど興味がなかったようだ)を2人で見た。正直言うと内容はあまり覚えていない。2人きりになる事なんて随分と久しぶりなものだったので一丁前に緊張していたのだ。
しかしそんなわたしもどうやら睡眠欲には勝てないようでそのまま寝落ちてしまったらしい。カゲがかけてくれたのだろうか、わたしはしっかりと毛布にくるまっていた。

「………ん」

ようやくわたしの頭が正常に機能してきたところですぐ隣にいた塊がモゾモゾと動き出した。わたしと同じように毛布にくるまったカゲだ。

「なまえ、」
「おはようカゲ」
「ん」

寝起きの掠れた声だ。目を閉じたまま体勢を変えてわたしを胸に閉じ込めるように抱きしめた。カゲの匂いがする。
お互い起きる気力は無いみたいだし、もう一眠りしようかな。わたしはそっと目蓋を閉じた。

「ひあっ」

しかしその目蓋はすぐに開けられることになった。カゲがわたしの首を、ガブっと噛んだのだ。それはもう、ガブっと。
なんとも言えない痛みが全身を走り一気に脳が覚醒してしまった。

「もうっ、起きてるでしょ」
「今起きた」
「起きて早々やめてよ」
「なあ、お前昨日犬飼と何してた?」
「は?なに突然」
「何してたっつってんだよ」
「まって、昨日? ……ああ、わたしが一人でぼんやりしてたから話し相手になってくれただけだよ」

抱きしめられたままだからすぐ近くに彼の頭があるし、声もすぐ耳のそばから聞こえて擽ったい。わたしは少し身じろぎした。

「気にいらねぇ」
「ヤキモチ焼きだなあ影浦くんは!」
「悪いかよ」
「悪くないから力入れないで。苦しいよ」
「なまえが余計なこと言うからだ。おら」

さらに抱きしめる力を込められて、ぐええなんて色気のない声を出すわたしはそろそろノックアウトしそうだ。
そしてまた先ほどと同じように首にガブッと噛み付きはじめた。いつから彼にこんな噛み癖が付いたのだろう。ビクビクと肩を揺らしながらぼんやり考えた。

「んっ……カゲ…」
「跡、付いた」

耳元で彼の随分と満足そうな声が聞こえた。そんな事しなくても、わたしは何処かへ行ったりなんかしないのに。


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素敵な企画に参加させていただきました。ありがとうございます。


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