5.大人しいとなんだか寂しいです ここ数日ぱったりとクロロさんに会わなくなった。例のカフェでも会わないし、出かけ先で会うこともない。ちょっと寂しいな、と思い連絡したくなったけどよくよく考えたら連絡先も知らなかった。わざわざお家に行くのも変だから行きたくはない。 『はーっもうこれは普通に恋なのか…』 でも冷静に考えるとクロロさんは変態?なのだ。大丈夫だろうか。ていうかそこらへんの女の子にあんな変態行動してたら私は泣きたい。可能性は大いにあるけど。 頭の中がクロロさんでいっぱい。クロロさんのことしか考えられない。だけどクロロさんはいない。何とも言えない虚無感が私の中に広がった。これは今日何もしないでぼーっとして終わりそう。 結局昼過ぎまでだらだら過ごして何もしないまま日が暮れた。西の窓から入り込む夕陽のオレンジ色が部屋を色付ける。ベランダから黒猫が入ってきた。泥がついてるほど汚くはないが飼い猫というほど綺麗ではない。とてとて私のところに歩いてきて顔を摺り寄せてくる姿に少し驚く。猫とはこんなに人懐っこい生き物だっただろうか。可愛いから良いけど。 『クロロさんに会いたいなー…。はぁ、』 猫の顎を撫でてやるとごろごろと鳴く。黒い毛並みに黒い瞳がクロロさんを彷彿させるとか、私はどれだけ考えているのだ。自分でも笑ってしまう。 部屋の電気をつけるのも忘れて猫にかまい続けること数十分。あ、と思ったときには猫はするりと私の手をすり抜けてどこかへ行ってしまった。まるでクロロさんみたいだな、と思った。突然かまってきたかと思えば不意にふらっとどこかへ行ってしまう。私ばっかり気にかけてるみたいで嫌だ。 『こんなに大人しいと寂しいんだよ、クロロさんのばか』 「馬鹿とはひどいじゃないか、優」 カタン、と音を立てて暗闇の中に現れたその人。いつもの人をからかうような笑顔に優しそうな目をしたクロロさん。 『え、うそ、なんで…』 「俺が優の家を知らない訳無いだろう。」 クロロさんが急に現れたことにもびっくりしたけど、その事実にも驚きだ。なんてったって私は彼に家を教えた覚えはない。しかしまぁ、人のことをストーカーするんだからこれくらいどうってことないのかもしれない。 ゆっくりとした歩調でクロロさんが私のところまで歩いてくる。さっきまで逢いたくて仕方なかった人が目の前にいることに緊張が高まる。もうドキドキしてきてるし顔なんて多分にやけてしまっていると思う。 「優、俺に会えてそんなに嬉しいのか?」 ニヤっと少し勝ち誇ったような顔をしたクロロさんが私の目線に合わせてしゃがみこむ。以前だったらこんなこと言われても『この人頭丈夫かな?』としか思わなかっただろうけど今は違う。すっごく嬉しい、って言いたい。けどやっぱり恥ずかしいから私はこう言う。 『クロロさんが大人しすぎて生きてるのか心配だったんですよ』 「何言ってるんだ、寂しかったの間違いだろ?」 けどクロロさんにはしっかり伝わっていたようです。 [mokuji] [しおりを挟む] |