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愛しきパートナー

彼は走っていた。
自分の足音と、暗い空から降る雨の音だけを聴覚機能で受取りながら。
表情は険しく、見るからに焦っているのが伝わってくる。
はぁはぁと息を切らしながらも、目的地へと向かって足を止めることなく走る。
傘も差さないまま。

“今夜は外で食べるか”

彼が今朝、愛する者に告げた言葉だった。
公園で待ち合わせようと伝え仕事に向かった彼だったが、予定が変わり、予定時刻は既に過ぎてしまっていた。
辺りは暗くなり、人もロボットも少ない。
時間に関してしっかりとしている彼。
このような事は殆どなく、稀だったからこそ焦りも大きかった。
もう帰ってしまっているだろうか。
待っていたとしても、怒っているかもしれない。
或いは、泣いてしまっているかもしれない。
そんな事ばかり頭の中を駆け巡る中、ようやく目的地である公園へと辿りついた。

愛する者は――待っていた。
約束していた公園の中央にある噴水の側で、空色の傘を差しながら。

「アイス……ッ」

息を切らしながら、愛する者の名を告げる彼――タイム。
アイスはその声に気付くと、方向を変えた。

「おかえりなさいであります、タイム」

そして、そう言った。
怒ることも泣くこともなく、タイムが全く想像していなかった優しい笑顔を見せて。
濡れているであります、と悲しそうな声を出すと、彼は持っていた傘にタイムが入るように移動させた。

「お仕事大変だったのでありますね…疲れたでありますよね?怪我はしていないでありますよね…?」
「…アイス…」

長時間待たせてしまっていたというのに、愛する者は嫌な顔一つせず、それどころかタイムの心配をし始めた。
たまらなくなったタイムは、アイスを力強く抱きしめる。
アイスの手からゆっくりと傘が落ちた。

「…ごめん、ごめん」
「どうして謝るのでありますか…?」
「……予定時刻を随分過ぎた。アイスの事…随分待たせた…」
「タイムの方が、お仕事が大変だったのであります。わたくしは大丈夫でありますよ…?」

アイスのあまりの優しさに、タイムは改めて感じていた。
ボクにはやっぱりアイスしか居ない、と。
アイスがパートナーで良かった、と。
怒っていたかもしれないのに、泣いていたかもしれないのに、彼はそうではなかった。
それどころか遅れた自分を叱ることなく、心配してくれたのだ。
増々、彼の事を愛おしいと想った。

「…アリがとう…アイス」

微笑みながら言うタイムにアイスが向けたのは、先程と変わらない優しい笑顔だった。
雨に濡れた身体を暖めようと、二体は傘を差して入り、家へと向かって歩き出した。

その途中で、タイムはアイスに告げた。
今日の予定の埋め合わせは明日しようと。
アイスはとても嬉しそうに、はい、と返事をするのだった。

***

予定時刻を過ぎてしまって遅れても、怒ることなく笑って、おかえりなさいでありますっていうアイスとタイムなお話が書きたかったんです…´`* 2015/8/29
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