静香(♀)×臨也(♂)
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いきなりだが、私には好きなヤツがいる。
改めて考えると、高校から大人になった現在までよくあんな最低野郎を好きでいられたなと自分自身の趣味を疑ったが、それでも私はアイツが好きなのだ。
高校から散々からかわれ、今でも相変わらず私を馬鹿にしたよな見下した態度で、嫌いだの死ねだの酷い言葉を平気で吐き捨てるヤツだった。私も悔しくてつい反抗して嫌いだと言い捨てるのだけど、そんなのは所詮口だけで実際はどれだけ罵られても好きで好きで仕方がなかった。
私は女ではあるが生まれつき力が凄まじく、男であるアイツなんかより数倍あったし、身長だってもしかしたらアイツより高いかもしれない。女らしいところなんて一つもないし、不器用で喧嘩っぱやくて素直になれなくて可愛げもない。
そんな私をアイツが好きになるわけがないと分かっていた。大嫌いだと面前で告げられなくとも、アイツが私を好きになる要素なんてこれっぽっちもないのだ。
ふわふわしてて可愛くて、思わず守ってあげたくなるような女の方がいい。或いはセルティみたいに優しくて思いやりのある大人の女になれたら、どんなにいいだろう。私も何度、そんな女になれたらと考えたことか。結局なれやしないけど、それでもアイツと会うたびにそんなことをついつい考えてしまう。私がもし、こんな力を持ってない、可愛げのある女だったら、或いは魅力的な大人の女だったら、アイツは私を好きになるのだろうか。
「しずちゃんは、そのままがいいんじゃない?」
―――けれどアイツは、そう言った。
可愛げもなく、魅力的な大人な女でもない私を前に、そのままでいいのだと呆れながら、当たり前のようにそう言った。
その馬鹿力も単細胞で沸点の低いとこも含め、それが君なんだからいいんじゃない?―――と、アイツは言ってくれた。
「しずちゃんに好きな人がいるってのも驚きだけど、まさかそんなこと考えて消沈するなんて君も内面は普通の女の子なんだね」
「女の子…?私、が?」
「だって、好きな人に嫌われたくないからそうやって悩んでいるんでしょ?今の君に副題つけるなら“恋する乙女”って感じかな。しずちゃんが乙女っていうのはうけるけど!」
「…………乙女…」
アイツは笑いながら軽い口調でそう言うが、私にとってそれは全然軽くない重大なことだった。
アイツは、私を女であると認識していた。喧嘩しかしてこなかった私を、アイツはちゃんと女だと認めていたのだ。しかも女の子だの乙女だの、アイツの口から出てくる単語はいちいち私の心臓を刺激する。
“好きな人に嫌われたくない”?あぁ、嫌われたくねぇよ。嫌われたくなんかこれっぽっちもない。どうせなら好きになってもらいたいって、そう思ってるよ。嫌いなんか本当は言われたくないっての。ふざけんな、むかつく、分かれよ気付けよこの鈍感クソノミ蟲野郎。
「……ところでさ、何でしずちゃん、折角俺を動けなくしたのに恋愛相談なんかしてんの?ていうか、さっきから血が止まらないんだけど足の感覚ないんだけど。恋愛相談する前にとりあえず病院だって」
「何で、だと?私がどうして手前みたいな奴にこんな話し始めたのか、分からねぇのか」
「あ、俺の足についてはシカトか。怪我させた本人のくせに酷いなぁ。あとさ、俺が君の考えを分からないのは仕方ないだろ。高校から今まで、俺の考えの斜めをいく回答しか君はしないんだからさぁ。つーか、マジやばい…目眩する」
はぁ、と零れる溜息は妙に扇情的で思わず息を呑む。活発に動く心臓のお陰で息が浅くなる。どくんどくん、と鼓動を重ねる胸が痛くて苦しくて、早くこの苦しみから脱したくてたまらない。
何なんだ、コイツ。本当に男か?私と同じで生まれてくる性別間違えてんじゃねぇのか?
そんな色っぽい溜息を吐くな、そんな弱々しい目をするな、そんな頼りない声で私を呼ぶな。自分が制御出来なくなるこれ以上はもう抑えきれない許容範囲なんてとっくに越えてる。
「しずちゃん?俺、新羅ンとこ行きたいから話はそれぐらいでいいかな?まだ悩んでいるならさ、俺よりもセルティに相談した方がいい」
「…セルティには前から相談してる。好きなヤツが誰なのかも知ってる」
「へぇそう。なら俺にわざわざ言う必要ないよね。それから、新羅のところ行きたいっていう俺の願望はやっぱり無視なんだね」
「……私だって言うつもりなかったのに…手前がっ、言わせたんじゃねぇか!」
「よし、とりあえず君は俺を治療させたくないんだな理解した。それから理不尽な逆ギレは止めてくれ。俺はただ、足を潰されて動けない俺にトドメをささないしずちゃんが可笑しかったから、どうしたのって聞いただけじゃん」
「それだよ、それ!!何でそんなこと聞くんだよ!こんなときに限って!」
「こんなときって…。君がどういう心境なのかは知らないけど、どうしたのって聞くのは普通じゃない?」
「あァ!?何で!?」
「知り合いの女の子がいつもと様子が違ったら、普通聞くでしょ」
「…!」
こ、の、や、ろ、うっ!!
臨也のくせにっ臨也のくせにっ臨也のくせにっっっ!
ふざけんなマジ一回くたばれよコイツ、手前の発言で今日だけで何回私が死んだと思ってんだよ。それとも何か、コイツは他のヤツにもこんなんなのか?これがコイツの普通?通常運転なのか?だとしてもやっぱり一回くたばれ。こんな甘ぇことホイホイ言ってんじゃねぇよだから簡単に信者だとか言う女が出来ちまうんだよ、嗚呼、腹立つ。
「臨也」
「何かなしずちゃ……って、あれ?ちょっと待って。なんか顔近くない?あとさり気なく両手で顔固定しないで下さい」
「臨也…」
「しずちゃん!ほんと近いって!!何、急にどうしたのさ!?」
「なぁ臨也……私の好きなヤツ、教えてやろうか?」
「―――え?」
私は、悪くないんだ。全部コイツのせいだ。
告げるつもりなんて更々なかったのに、どうしたのなんて当たり前のように聞いてくるコイツが、私を女として接するコイツが、悪いんだ。そんなことを当たり前のようにしてしまうコイツが、私は心底嫌いだ、大嫌いだよ。
どうしようもないぐらい最低最悪で、卑怯で卑屈で歪んでるコイツが、私はどうしようもないぐらい大嫌いで――――。
「し、ず……ん、ふっ!?」
「っは……ん、」
「ふっん…!んん、ぅっ……は…ン、ぅ」
ぐちゅぐちゅと重なり合った唇から鳴る水音に、頭が沸騰してしまいそうだ。
抗うように口内への侵入を拒もうとする舌を逆に絡め、吸ってやると苦しそうに息をつめる。何度も何度も唾液を交換し合っていると、飲みきれなかった唾液が私とアイツの口端から垂れて顎を伝う。
最初は、私の体を突っぱねようとしていた両腕もいつの間にか力なく縋っているだけになっている。
嗚呼ほんと、どっちが女でどっちが男なのか分からない。尤も、私だからこそ成人した男の抵抗に耐えられるんだけどな。
「…いざや」
「はっ…ぁ、はぁ…」
「臨也、好きだ。私が好きなヤツは手前だよ」
「は…ぁ?うそ、だろ…」
「嘘じゃねぇよ馬鹿。本当だよ、高校ン時から手前しか見てねぇよ」
「…ほんき?」
「本気だ。だから手前も、本気で答えろ」
「…しずちゃん…」
充血した目で見上げてくるノミ蟲に、また心臓が苦しくなる。心臓に何か刺でも刺さってんじゃないかってぐらい痛い。
あーくそ、そんな顔すんなよ。潤んだ目で見上げてくるとか駄目だろ、いやそうさせたのは私だけどな。
でもそんな、弱々しい潤んだ目で、顔を青くさせて見上げるなんて、また自制が出来なくな――――って、ちょっと待て私。
―――顔を“青く”…?
「しずちゃん、ごめん、おれ、もうむり……」
「い、臨也!?しっかりしろ、オイッ!」
「とりあえず…しんら、とこ……つれて、って…」
そう言って糸が切れたように、臨也の意識は途切れてしまった。
――――その後、臨也の要望どおりに新羅のところに連れて行ったら、新羅とセルティに「告白する前にまず治療させてあげようよ」と呆れられながら注意された。
いや、でも、あんな誑しみたいなこと言う臨也が悪いんだ。臨也が悪い、うん。
「…静香、本当は?」
「弱ってる臨也みたらついムラッときた」
「(………臨也、これから大丈夫かな)」
新羅の心情などまったく知らない私は、これから臨也をどうしてやろうかと思案するのだった。
「(こうなったからには絶対逃がさねぇからな……臨也くん)」
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♀×♂に反応いただけたので、つい調子にのってしまいましたすみません…!
だけど楽しかった(ぇ)
肉食系女子と狩られそうな臨也。
多分ここから、臨也の悲劇がはじまります(^q^)
因みに実は、こうしようかと思ってました。
↓
「―――っつーことだ!分かったらもう臨也のこと追いかけんな!それは私の役目だからな!」
「…何が、っつーことなんだよ静香あああ!!俺がそれに了承すると思ってんのか手前はよっ!」
「静雄の了承なんか知るかっ!いいから手前は臨也に手ぇ出すなよ!!アレは私のだからッ」
「ざけんな!アイツは手前のモンじゃねぇ、俺の標的だ!静香こそ手ぇ出すんじゃねぇよ!!」
「はぁ!?マジふざけんなよクソ兄貴!ンで私が静雄に指図されねぇといけないんだよっ死ね!」
「その台詞、そっくりそのまま熨斗付けて返してやるぜぇ静香ちゃんよォ…!」
まさかの静雄と静香の双子ネタww
おそらく静香ちゃんが「臨也は私のモノ(恋人)にするから邪魔すんなよ!」とか言って、池袋最強同士の傍迷惑な兄妹喧嘩がはじまります('・ω・`)笑
加藤のイメージでは静雄くんが双子の兄で静香ちゃんが妹です。←←
…あ、聞いてねぇよって感じですね黙ります(土下座)