今日、クソノミ蟲が池袋に来ているらしい。らしい、という不確かな情報ではあるがアイツが此処に来ているかもしれないなら俺はそれを見逃すことは出来ねぇ、つーか、見逃すか。

大体あの馬鹿は今度は何しに来やがった。また何か良からぬことを考えてんじゃねぇだろうな。もしそうなら殺す、絶対殺す。寧ろ何か仕出かす前に殺してやる。



「(臭ェ…くせぇくせぇくせぇ!)」



あのノミ蟲が池袋にいるって時点で苛々する。つーか、臭ェ!無性に殴り飛ばしたい気分になる。勿論、殴り飛ばすのはノミ蟲だ。アイツさえ居なければ俺の平和は守られる。アイツさえ居なければ、俺は何事もなく静かに過ごせる。
アイツさえ居なければ。俺の目の前に、俺の人生の中に、俺の平穏の日々に。折原臨也という異物さえ居なければ、何事もなく平和に静かに過ごせる。全てはアイツが悪い。

そう考え出すとまた苛々する。



「…あ、」

「―――よぉ。なぁんで池袋に居やがるんだぁ?いーざーやー君」

「俺だって好きで来たわけじゃないんだけどなぁ…。ていうか、出来ればシズちゃんには会いたくないから来たくなかったよ」



見つけたアイツは相変わらず俺を苛々させる。その引き攣った顔も、ポンポンと出てくるうざったい口調も、アイツの全てが俺を苛々させる。
来たくないならくんな、ついでに死ね。それで二度と俺の前に姿を現すな!そう言ってやればアイツはやれやれと溜息を吐きながら「寧ろシズちゃんが死ねば?」だとかふざけたことをぬかす。嗚呼、腹立つ。

ブチリ、と脳内で何かが切れる音がした。そう思っていた時には既に、俺の手には自動販売機があって、それを思い切り苛立ちの元にぶん投げてやった。けど、投げただけのソレは結局アイツに当たることはなく、軽々と避けるアイツにまた腹が立った。



「シズちゃんはワンパターンなんだよ。まったく、もう少し成長すればいいのにねぇ」

「うるせぇ!」

「あはは、そう怒らないでよ。別にシズちゃんと喧嘩したい訳じゃないんだから」

「だったら俺の前から消えろノミ蟲ィィィ!」



キツく握った拳をアイツ目掛けて振り落とす。一発、二発は簡単に避けられることは分かっている。だから俺はアイツに当たるまで只管拳を振るい続ける。多少の疲労は出てくるが、幸運なことに俺は臨也よりも数倍体力がある。だから俺がこうし続けて、先に根を上げるのは確実に臨也の方だ。

だからアイツは自分の身を守る為にナイフを取り出す。それがいつものパターンだ。武器を持たなければ、アイツは俺に抵抗することが出来ない。最も、俺にしてみればナイフも抵抗されている内に入らねぇけど。けど、臨也はそれを分かっていながらもナイフを取り出し、俺に抵抗する。


―――けど、この日の臨也は避けはするものの、いつものようにナイフを取り出すことはなかった。



「…っ、え?」

「………」



肩で息をしながら、呆然と俺を見る臨也を俺は眉を顰めながら逆に見返した。臨也が呆ける理由は分かる。俺が急に殴りかかるのを止めたからだろう。手を伸ばせば届く範囲にいるのに殴らない俺を、臨也が訝しがるのも分かる、気がする。
けど、それは俺にも言えたことだ。いつもみたいに抵抗しない臨也に、俺は意味不明な苛立ちが募る。



「……手前、何で避けてばっかなんだよ」

「だって殴られるの嫌だし」

「そうじゃねぇよ。何で抵抗してこねぇのか、って聞いてんだ」



苛々する。めちゃくちゃ苛々する。
池袋にコイツが居ることも苛々するし、俺の目の前にコイツが居るのも苛々する。もっと言えば、コイツがまだ生きていることにも苛々するし、コイツの厭な顔を見るだけでも苛々する。

苛々するんだ。全部全部、コイツのせい。
だけど今、俺が一番苛々しているのはこのどれでもない――――俺に反抗しない臨也が、いつもと違う臨也が、苛々する。



「手前はうぜぇし鬱陶しいし、悪の根源みてぇな最低野郎だ。俺がこの世で一番嫌いな奴で、俺がこの世で一番ぶっ殺してぇ奴だ」

「…奇遇だね。俺もシズちゃんが、この世で一番大嫌いだし一番憎いよ。君がいるせいで俺は、自信満々と人類全員を愛してるって言えなくなる」

「ハッ!だったら手前も本気でこい―――じゃねぇと、ツマンねぇだろ?」



苛々する。臨也の姿を見るだけで、臨也の声を聞くだけで。苛々が止まらねぇし、腹の奥底からドス黒い嫌悪感が滲み出てくる。折原臨也という存在全てが、俺の苛々の元だ。
俺が平和に静かに暮らせないのも、俺から平穏を奪っていったのも、全てがコイツのせいだ。だから俺は臨也が嫌いだ。嫌いだからこそ、のうのうと生きているコイツを見るだけで苛々する。

だから俺はコイツを見かければ自動販売機は投げるし、標識で殴りかかるし、最終的には拳を振り落とす。コイツと会えば毎回のよう、に喧嘩ほど可愛らしくない殺伐とした殴り合いや切り合いをする。俺は臨也に対する嫌悪、臨也は俺に対する憎悪。それを理由として喧嘩をするし、嫌悪しているから臨也の存在には苛々する。
殴りたいとは思う。殺してやりたいとも、まぁ思う。それだけ俺は臨也が大嫌いだ。苛々する。苛々が募る。臨也が居る限り、この募りは消えない。


―――だけど苛々が元になった喧嘩を、ほんの少しでも楽しいと感じてしまったのは事実で。

俺が心底嫌悪し、この世で一番大嫌いでぶっ殺してぇ奴が、俺の人間離れした暴力に付いて来られる唯一の奴で。

抵抗のない一方的な喧嘩はツマラナイ、と思ってしまった。



「もっと抵抗してみろよ、臨也」

「……ほんと、君って」



―――バケモノ、だね。


そう嘲笑った臨也の手にはナイフが握られてあって、俺はそれに口角を吊り上げて、笑う。

苛々が、止まった気がする。





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臨也があしらうみたいに適当に喧嘩したら不機嫌になるシズちゃん萌える(*´Д`*)ハァハァ
また、逆バージョンも激しく萌える(*´Д`*)

とりあえず、静雄と臨也が萌える。



 
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