日常とは、案外容易く崩れるのだ。

珈琲を飲んで、パソコンと向き合って、仕事に行って、情報を仕入れて、趣味に没頭して、変化し続ける人間達の動向を探って、池袋の街に行って、シズちゃんに見つかって、殺し合いをして、紅茶を飲んで、波江に嫌味を言われつつも仕事して、チャットして、また新たに手に入れた情報で色んなことを考えて、人間を愛して、人間に嫌われて、でも俺はやっぱり愛してると笑う。

それが俺、折原臨也の一日だ。細々としたところは違っても、大きく掻い摘んで言えばこんな感じなのだ。


――――しかし冒頭でも言ったとおり、日常なんて脆い。

たった一つのきっかけで、毎日繰り返されるだけの日々が急激に一変するのだ。





そして俺の場合、それがある日の一本の電話だった。





おいでませ、袋!
▼日常を崩すワンコール





「…臨也」

「んー」

「電話、早く出なさい」

「あー…あとで掛け直す。プライベート用の携帯だし、大丈夫」

「……けど、貴方」

「何?」

「もう三分ほどノンストップで鳴りっぱなしだけど?」

「……………え、そんなに鳴ってた?」

「ええ」



相変わらずの仏頂面で素っ気なくそう言う波江に、俺は未だに鳴り続ける携帯を一瞥する。
何台もある内の一つで、持っている携帯の中で一番活用する機会の少ない携帯でもある。俺には仕事用の携帯、臨時用の携帯、信者の子用の携帯、その他色々な用途で使う色んな携帯、それとプライベート用の携帯がある。最も使うのは、まぁ言わずもがな仕事用の携帯であるのは間違いない。あとはそれほど格差はない。けれど、プライベート用の携帯は俺の記憶が正しければ、この機種に変えてからまだ数回しか使用してない気が、する。

いや、別にプライベートが寂しいってわけじゃないからね?ていうか、俺のプライベートなんてあってないようなもんだからね?情報屋とか曖昧な仕事してると、ビジネスとプライベートをきっちり分けてなんか出来ないんだからね?ていうか、プライベート用の携帯なんて数人の名前しか入ってないから仕方ないんだよ?自然とそうなっちゃうんだよ?

よし、俺のプライベートが寂しい説、これで抹消。



「いいから出なさい。相手に失礼でしょう」

「あ、うん」



俺が脳内で繰り広げられた、俺のプライベート…以下略が、波江の一蹴で全て消えた。しかもあまりにも普通に親が子供を咎めるみたいにやんわり叱られたから思わず「あ、うん」なんて間抜けな返答をしてしまった。俺は何歳だ、そして波江は俺の母親か。


と、また色々脳内で今度は一人突っ込みをしつつも、俺は漸く未だに鳴り続ける携帯を手に取った。スライド式の携帯のディスプレイに表示された名前を見て、思わず目を見開く。そして今まで放置していた三分前の俺を心底呪った。

ディスプレイに表示されていたのは、俺が高校三年生になる前にイタリアへと颯爽と飛び立ってしまった、二個年上の――――幼馴染。



「っ、きょっ―――」

『遅い。そんなに咬み殺されたいの?臨也』

「ご、ごめんって。だって、まさか君から掛かってくるだなんて思わなくて…」

『…まぁいいよ。今回だけは許してあげるよ』

「よかった。今度からは気を付けるね―――恭弥さん」



そう言えば機械越しにいる彼、恭弥さんが小さく笑った。


―――雲雀恭弥、それが電話の向こう側にいる彼の名前だった。

恭弥さんは気付いたときにはもう知り合いだった。ネーミングセンス以外は普通であった俺の両親と、ネーミングセンスも普通であった彼の両親は仲が良かった。それ故に、その子供である俺と彼も必然的に交流を深めることになった。
小さい頃は“まだ”まともだった俺と彼は、それはもう今では考えられないほど純粋な遊びをしてきゃっきゃっしてたものだ。今考えると乾いた笑みしか出てこない。

しかし、いつからだったか。
―――そうだ、俺が小学校の低学年の頃、女のような容姿だとクラスの中心部にいた苛めっ子体質の男子とその取り巻き達にいじめられたのがきっかけだ。

彼等は幼い子供故にまだ善悪の区別がはっきり分からなかったから、苛めを簡単に行った。その対象が
ひ弱そうで女の子のような俺。過度な暴行はなかったが、毎日のように続く罵倒と軽い暴力。当時の俺はそれを純粋に恐れ、これ以上の被害を防ぐ為にいいなりになっていた。


それを一変させたのが恭弥さん。彼はなんと、俺を苛める彼等をあっさりと捻り潰した。銀色に輝くトンファーで。
何故そんなものを持っているのかと尋ねた時の彼の返答は傑作だった。



――――ぼくは、群れるそうしょくどうぶつがキライなんだ。

――――そいつらを見てるとイライラする。だからかみころしたいと思ったけど、ぼくにはかみころせるだけのきばを持ってない。

――――それを父さんと母さんにいったら、“じゃあこれでかみころしなさい”ってもらったんだよ。



瞬時に悟った。彼の両親はネーミングセンスも普通な、ただの親ではないと。ネーミングセンス以外は普通じゃない親なのだと、俺は知った。

そして同時に面白いとも思った。俺を苛めてた彼等も、弱い草食動物を咬み殺したいなんて思う彼も、そんなこと言った小さな息子に簡単にトンファーを差し出す彼の両親も。人間と言う一つのジャンルの中でも様々な感性を持ったニンゲンがいる、そして俺はそんな人間をもっと知りたいと思った。それは、恭弥さんが弱い人間を咬み殺したくなるのと同じ衝動だ。ただ俺は、色んな人間を見るとつい愛したくなった、それだけだ。


―――それ以来、恭弥さんはトンファーを両手に弱い人間を咬み殺し、俺はひたすら人間愛を謳った。

方向性はまったく真逆だけど、それでも俺達の関係は変わらなかった。それこそ、数年前に日本を離れてまでもこうして連絡をくれるぐらいには、交流はある。



「それで、どうしたの恭弥さん。君が連絡してくるなんて本当に珍しいよねぇ」

『ああ、それなんだけど』

「何?」

『僕、今日本にいるんだよ』

「………は?」

『ちょっと面倒事があってね。更に加えて、日本であるファミリー主催のパーティーがあるからそれの参加も兼ねて戻ってきてるんだよ。因みに守護者全員でね』



淡々と吐き出される言葉達に、俺は呆然とした。彼がこっちにいるというのにも驚いたが、彼の同僚達までも全員いるとなるとある意味大事だ。
だって、俺は彼と彼の属している組織がどんなろことか知っているから。それ故に、守護者全員というワードはとても重大であり大層なことなのだと分かっている。

だからこそ、なのか。
さっきから頬の引き攣りが止まらないのは。



「…ものすっっっごい嫌な予感しかしないんだけど、一応聞いておくよ。場所は?」



ああ、電話越しで笑ってるよこの人。絶対俺の予想当たってるね、ていうか当たってるだろ。
しかもこの人、俺がどんな顔してどんな心境で聞いてるのか分かってるよね。じゃないと、あの雲雀恭弥がこんなに楽しそうに笑うわけないから。



『――――池袋。僕達は今、池袋にいるよ』



ほら、やっぱり。


――――どうやら暫らくは、新宿の情報屋さんをお休みせざる負えないようだ。

俺はそう思いながら、目の前にあるパソコンの電源を落とした。





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完全俺得話ですみません。
けど、私一人はずっと楽しかったです(^▽^)←オイ

続きは需要がなくとも、私の萌えを吐き出す為に書きたいと思ってます(キリッ)
あ、ちなみにこれはある意味、臨也の本職パロディ(?)でもあります!←



 
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