佐藤君は同性の目からみても格好良いと思う。
身長は高いし、無愛想だけど顔はいいし、時々意地悪で少々暴力的だけど本当は優しい上に紳士だ。煙草を吸ってる姿は妙に様になってるし、仕事は迅速且つ正確でミスなんてことはほとんどない。
それとなく周りにも気を配ってくれるし面倒見もいい方だろう。そして非常識な人間ばかりがいるこの仕事場では比較的常識人に部類され、みんな何だかんだでそんな佐藤君に甘えてる。斯く言う俺もその内の一人だとは自負してるけど。でも佐藤君は文句を言ったり悪態を付いたりしても、結局は折れてくれる。
そんな彼が格好良くないわけがない、と思う。
だがしかし、残念だ。非常に残念だと同時に思う。
「……佐藤君って、イケメンなのに残念だよね。色々と」
「…相馬、お前何言ってんだ?」
そんな同性の目から見ても格好良い佐藤潤君は現在進行形で片想い中だ。それも四年。更に追い打ちをかけると、その想い人は佐藤君と出会う前からただ一人の人しか眼中にないし、佐藤君のことは「とても優しい同世代の男の子」としか思っていないのだから哀れだ。いっその笑える。
毎日のように想い人の口から延々と惚気を聞かされ、それに丁寧に相槌を打つ佐藤君の姿は見ている俺としては面白くて仕方ないけど、その哀れなイケメン佐藤君の姿を見続けてると段々俺まで悲しくなってくる。
あまりにも報われなさ過ぎて、あまりにも不憫過ぎて。本当に極稀に、そんな残念で可哀想な格好良い佐藤君に同情したくなるのは仕方ないことだと思うんだ。
「こう言うのもアレだけど……轟さんを好きじゃなかったら、彼女の一人や二人いても全然不思議じゃないのになあ、って」
「…お前はまたいきなり何を言い出すかと思えば、そんな下らねぇことを」
「だってさ、佐藤君って贔屓目なしにしても格好良いのにさ、ほんと残念だよねぇ」
「!」
「え、どうしたの佐藤君?そんな目、カッて見開いちゃって」
「っ何でもねぇよ」
何だかよく分からないけど、急に見たこともないような顔するからビックリだ。思わず聞けば何でもないとあっさり一蹴される。まぁそこまで引っ張るつもりはないからそれ以上は聞かない。
話は逸れたけど、俺は心底不思議なのだ。
それは轟さんに長年片想いしてる佐藤君でもなく、佐藤君に彼女がいないことでもない。尤も佐藤君の妙に真面目な性格上、好きな人以外と付き合うなんて発想は元からないだろうし、彼女がいないのは当然だと思うけど。
そうではなくて、俺が心底不思議に思っているのは轟さんに対してだ。
轟さんは佐藤君と接してる機会も多いし、いくら店長一筋であっても少しぐらい靡いても良いだろうと思うんだ。けれど轟さんは佐藤君を「大切な友達」としか思えないらしい。本当に不思議。
「俺がもし女だったら、好きな人がいても佐藤君にあんな風にされると絶対絆されるよ。寧ろ、佐藤君を好きになると思うけどな」
「…………相馬」
「ん、何?」
「……お前、本当にそう思うか?」
「思ってるよ。佐藤君が格好良いってところから最後まで、全部本心だよ」
「…………」
そこで沈黙されると逆に不安になるんだけど、佐藤君。
ていうか、どうしてそんな難しい顔するかな。今日は別にからかってるわけでもないし、変なことを言ってるというわけでもない、と思う。言ってることは珍しく素直な言葉だし、何一つ佐藤君がそんな顔する理由が見つからない。
すると不意に、佐藤君が顰めっ面のままで俺の方を向いて「相馬」って名前を呼んでくるから、俺は何でもないように当たり障りのない返事をする。
「お前の目から見て、俺は格好良いって思えるのか?」
「そうだね。佐藤君は十分すぎるほど格好良いと思うよ」
「そ、うか…」
「(……あ、そっか。なるほど、そういうことか)」
俺の肯定に少しだけ、ほんの少しだけ。微々たる変化でほとんどの人には絶対分からないような、それぐらいほんの少しだけ嬉しそうにしている佐藤君を見て、俺は思わず納得。
つまり、あれだよね。
俺が格好良い格好良い言ってるから、ちょっとだけ自信が持てたってことかな。意図的ではないけど、結果的に俺は佐藤君を勇気づけたことになるんだろう。
やっぱり轟さんにずっと友達としか見られないと、自然と自信も喪失しちゃうんだろうね。あまり佐藤君は表情に出す方じゃないから、そういった感情に気付けなかったや。
ならきっと、今の俺は珍しく良いことしてるんじゃないのかな。
「(あ、ちょっといいかも。こういうのも)」
図らずしも佐藤君を元気づけれて良かったかもしれない。
そりゃあ普段の、店長の惚気を轟さんから聞かされる微妙な心境にいる佐藤君を見るのは楽しいし、それ関連でからかうのも楽しい。だけど偶には、こうして俺が言った言葉で嬉しそうにしている佐藤君を見るのもいいかもしれないと初めて思った。
ちょっとした発見。
そして、そんな風に佐藤君に嬉しそうにされるとつい、俺まで嬉しくなった。
「――――大丈夫だよ、佐藤君!」
「は?」
「きっといつか轟さんも分かってくれる日がくるから。佐藤君が残念なイケメンじゃなくて、本当のイケメンだってことを!」
「……はい?」
「大丈夫、佐藤君は格好良いよ。だから頑張って」
「………オイ、相馬…」
「なに?」
「やっぱり俺、お前のことなんかきらいだ…」
「え!?何で!?」
けれど俺の精一杯の慰めの言葉は、急にテンションがガタ落ちした佐藤君によってばっさりと切り捨てられたのだった。
……本当に何でだろう?
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轟さんのことを好きだと思ってる相馬と、今度は相馬に絶賛片想い中の佐藤君。
何だかんだで轟さんのことを応援してるんだけど、相馬さんがやると佐藤君には逆効果になります。
……片想いしている相手に応援されたくないよね、そりゃあ…(笑)
タイトルは佐藤君の気持ちです(^q^)