暴力は嫌いだ、と彼は言う。俺にはそれが可笑しくて可笑しくてしょうがない。
だってさ、そんなこと言っときながら何かを破壊するんだよ?すごく滑稽に見える。君が今まで生きてこれたのは、その暴力あってこそだっていうのに!本当に馬鹿みたいだ。


シズちゃんは暴力が嫌いなのかもしれないけど、その奥底ではきっと、何よりも暴力の魅力にハマってしまってる。だから自分の破壊願望から逃れられないし、逃れるわけがない。だってシズちゃんは暴力を望んでいるんだから逃げるわけないじゃないか。
殴って殴って、壊して壊して。そして気付いた時には何もなくなってる。

―――ほら、やっぱり可笑しい。



「ねぇ、シズちゃん。君はどうしてそんなに化物なんだろうね?」

「ッ、手前…!」

「だってそうじゃない。暴力が嫌いとか言ってるくせに、今もこうして俺を痛めつける。何度も何度も、抵抗出来ない俺を殴りつける。これって凄く矛盾してると思わない?」

「ハッ!生憎と俺は、ノミ蟲相手に罪悪感なんて湧かねぇんだよ。だから俺はお前だけは殴る。お前だけを殴る」

「……ふぅん」



理不尽だ、そして不条理だ。俺の意見なんて聞いちゃくれない。多分、これからもどんなに俺が痛いと喚き、止めてと叫んでも、シズちゃんは暴力を止めない。俺に対しては、どんなことがあろうとも。
それってある意味、シズちゃんにとって俺が“特別”ってこと。嫌いで大嫌いで、心底憎いから、シズちゃんは自称大嫌いな暴力を俺に奮う。ひた隠しにしていた破壊願望が表へと剥き出し、非力な俺に牙を立てる。嗚呼、可哀想な俺。まるで悲劇のヒロイン並みの哀れさだ。

そんなこと思ってる間も、シズちゃんの一方的な暴力は止まらない。



「っ、ぐッ!ぁ、あ…」

「イイ顔してるぜ?臨也君よぉ」

「、ははっ!どんだけ、サディスト、だ…!死ねよっ」

「…今の状況、分かってんのか?あァ?」

「が、ッは」



顔面を殴られた。口の中なんか既に血まみれだ。一応は手加減してくれてるらしいけど、それでも痛い。只管痛い。
チラリと一瞥した左腕は、青紫色に腫れ上がってて既に痛みなんか感じないほど痛覚が麻痺してる。足も多分、ヒビぐらいは入ってるんじゃないかなぁ。だって痛すぎて力が全然入らない。ていうかもう、何所がどう痛いのか分からない。

次第に視界が霞みがかり、今ではシズちゃんのド派手な金髪ぐらいしか認識出来ない。意識だっていつ飛んでも可笑しくない。今こうして脳内で冷静に解説してる俺を誉めて欲しいぐらいだ。



「オイ、ノミ蟲。そろそろ死んだか?」

「………、」



何、言ってんだか。というか、その問いかけは可笑しいだろ。
散々一方的に暴力振るっといて、反応がなければ死んだかと問いかける。馬鹿じゃないのか、コイツ。いや、シズちゃんが馬鹿なのは今に始まったことではないけど。

まるで他人事のように脳内で呟いてると、ガリッ、と激痛が走る。



「った…!」

「まだ生きてるじゃねぇか。シカトしてんじゃねぇよ、クソ臨也」

「お、うぼうだよ、シズちゃん…。ていうか、何、してんの」



息も絶え絶えに尋ねれば、霞む視界の中のシズちゃんがそれはもう凶悪的に笑った。
かと思えば、また俺の顔に自分の顔を近づけて、そしてさっきみたいに唇を重ねる。今度は噛まれはしなかったけど、その代わりに熱さで死にそうだ。

まるで生き物みたいに俺の口内の中で蠢くシズちゃんのソレが、俺の酸素全てを吸い出してるようで、すぐに息苦しさが襲う。残った力を振り絞って何とか微量な抵抗をしてみるものの、シズちゃんには何の意味もない。
顎を掴まれ、何度も何度も角度を変えて、しつこく吸ってくる。どんな暴力を振るわれても出なかった涙が、あまりの息苦しさに自然と網膜に薄い膜を張っていて、瞬きをした途端、零れ落ちた。

それを横目で確認したシズちゃんが、漸く俺から離れた。



「はっ、は、っ…!」

「ザマねぇな、オイ。手前の泣き顔なんざ一生見ることねぇと思ってたが、見たら見たで頗る気分が良いな」

「変態、だね!さいあくだ、」

「そんな奴に泣かされる手前は最高に面白いぜ?なぁ、」



――――イザヤ。

そう言って再び近付いてきた彼の顔を見て、俺は静かに目を閉じた。


彼の“特別”は、とてもとても重くて―――熱くて。俺はその熱に浮かされ、彼の行為を甘んじて受け入れた。初めて交わった彼の唇からは、鉄の味で一杯だった。





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DVなシズちゃん。
それを受け入れる何処か狂った臨也。

殺伐とした空気も好きw



 
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