俳優幽×俳優臨也
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キラキラ光るライトの下で場面ごとに表情を切り替えるあの人に見惚れているのは俺だけじゃない。

台詞だと思わせないほど自然に口から出てくる言葉はちゃんと話の流れに沿っていて、一つの言葉に一つまた表情を変える。綺麗なあの人が微笑めばこの現場のどこかにいる人間が溜息を吐く。それは怒りで顔を歪めても、悲しみで顔を顰めても、出てくるのは感嘆の息。
誰も彼も、あの人の美しい容貌に目を奪われる。



「(…それが嫌だなんて、俺も大概嫉妬深い……)」



そんなことを心中で思い浮かべる自分に最早呆れるしかない。視界に入るあの人はライトの下で、慈愛に満ちた微笑を浮かべている。その微笑を真正面から受けるのは俺ではなく、共演者である女優。役の立ち位置からすれば女優の演じる役の女性は、彼の演じる役の男性に片想い中という設定。
たかが作品の設定だと安心は出来ない。何故なら彼と向かい合う女優はおそらく―――というかほぼ確定的に、彼に好意を寄せているのが目に見えて分かる。今だって演技そっちのけで本気で見惚れてる。監督の鋭い声が現場に響く。

あまり思い通りに進まないのは大半が彼女のせいだ。大した実力もない上に、彼と向かい合う度にああだと中々オッケーなんて貰えない。
流石に流れが悪いと思ったのか、監督の隣にいる助監督の口から一時間程の休憩が告げられる。



「(今日は遅くなりそう…)」



折角今日は彼と同じ現場だったのにろくに話せていない上に帰宅まで遅くなるなんて最悪だと思う。しかもその原因を作っている女優は、休憩に入った途端に自身の失態を彼に謝罪をするフリして近付いているのだから知らずのうちに眉が寄る。

俺だって分かってる。あの人はとても綺麗で、そしてどんな役でも当然のようにこなせるほどの確かな実力を兼ね備えている完璧な人なんだと。そんな彼に好意を寄せるのは極自然な流れであると言える。
だからあの女優が彼に好意を抱くのも自然な道理だと思うし、この現場にいる人間が彼に見惚れるのも当然なのだろう。


けど、それでも。



「―――臨也さん」

「あ、幽くん」

「…お疲れ様です」

「どうも。それより幽くん、休憩中することある?ないんだったら付き合ってよ」

「いいですよ。俺も臨也さんに用があったので」



なら丁度良かった!と臨也さんは嬉しそうに笑い、俺の方に近付いてきた。そんな臨也さんの背中を見て何か言いたそうにしている女優の人にはまったく悪いと思わない。けど、あっさりと臨也さんの意識から外されたことに関しては少し同情する。何せ今の臨也さんには、俺が声をかけるまでの間にかわされていた会話すら既に残っていないだろうから。

でも、所詮これも戯言。
実際の俺は悪いと思ってもいなければ、同情すらしていない。



「あはは。幽くん、何だか随分と不機嫌そうじゃない?」

「…臨也さんのせいですよ。貴方があんな風に彼女に笑うから」

「えぇ?だってそれが俺の仕事だし仕方ないよ。それに最終的には彼女、君とくっついちゃうんでしょ?俺としてはそっちの方が問題だね」

「嫉妬してくれるんですか?」

「……悪い?」

「いえ、嬉しいです」



臨也さんの肯定に、俺の気分はあっという間に浮上した。だって、まさか臨也さんも俺と同じ感情を持っているなんて思わなかったから。

俺は臨也さんと一緒の現場になるたびに臨也さんに対しての熱情を抱く人を見つけては嫉妬して、臨也さんと絡む女優や俳優の人達全員に嫉妬する。かと言って別々の現場だとしても嫉妬心は治まらない。俺の知らない所で知らない人間がまた、臨也さんに対して好意を寄せるようになったらどうしようとかいつも考えている。今日だってそう。あの女優の人だけではなく、俺は臨也さんと関わる全ての人に対して嫉妬している。
でも、それはどうやら俺だけではなかったようだ。俺と差はあるにしても、少なからず臨也さんも嫉妬してくれていると分かっただけで嬉しい。それだけで俺の機嫌を直すのには十分だった。



「臨也さん、好きです」

「ちょっ…幽くん!流石に誰がいるか分からないところで言うのは止めてよ。ていうか急には止めて……心臓に悪い」

「なら俺の楽屋に来ますか?誰もいませんから」

「……なんかそれ、親の不在中に彼女を部屋に誘う男子高校生みたい」

「何なら男子高校生が彼女を部屋に呼ぶ“理由”もしますか?楽屋ですけど」

「俺に死ねと?」

「あ、すみません。一時間じゃ足りないですよね」

「そういう問題じゃないんだけど。ていうか幽くん、無表情でさらっとすごいこと言うね」



まったく、と眉尻を下げて笑う臨也さんはライトの下にいなくてもやっぱり綺麗だ。いや、もしかしたらそれ以上に綺麗で可愛い。

俺の隣にいるのはドラマの中の人物ではなく、本当の臨也さん。きっと現場にいた人達は知らない本当の臨也さんが、今俺の隣で笑ってる。それはひどく俺に優越感を与えてくれる。
そして、恋人にしか見せない甘い顔を知っているのは俺だけ。臨也さんのマネージャーや事務所の人、友人の人も知らない。同級生である俺の兄さんも知らない。

俺だけしか知らない俺だけの臨也さん。
例え、演技の中で俺以外の人と恋人同士を演じることになっても、それは臨也さんではない。飽く迄もその役のキャラクター。嫉妬しないことはないけど、でも俺しか知らない臨也さんが見られることはない。



「臨也さん、」

「なに?」

「好きです」

「……幽くん」

「はい」

「愛してるよ」

「!」



こんな顔を赤く染めて愛を紡ぐ可愛い臨也さんを、俺以外が知ることなんてない。





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初の幽臨の試みでしたが…難しい。
初々しい中学生カップルみたいになって恥ずかしいったらない。


……平和島サンドが大好きですww(何)



 

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