これの設定・情事後
新セル前提新臨←静
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「君って本当に性格悪いよね」

「……何、いきなり」



白いシーツに包まる臨也は、緩慢な動きで枕に押しつけていた顔を少し上げ、赤にも見えるその双眸を自分を貶しているのか褒めているのか、そう称してくる男を見た。男は至極楽しそうに笑い、怠くて思うように身体が動かせない臨也を気遣うように形のよい頭を優しく撫でる。臨也はまるで自分が子供扱いされているようで気に入らなかったが、今はその手を振り払うほどの体力は残されていない。

それを分かっていながら続けるこの男の方が、臨也は冒頭の台詞が合っていると思う。



「そんなに殺気立って睨まないでよ。数分前まではあんなに目を赤くさせて泣いてたくせに」

「ばっかじゃないの?そんなの生理現象に決まってるだろ」

「ああ、気持ち良すぎて?」

「死ね!」



羞恥心を誘う言葉を吐き捨てる男に、今度は重い身体を無理矢理に動かし、頭の上に乗る手を思い切り振り払った。男はそんな臨也に対し「こわいなぁ」なんて一言零す。けれどその顔から笑みが消えることなく、喉を震わせる。
そして振り払われた手は、シーツの上から臨也の細い腰に触れる。つい先刻まで繋がっていたこともあり、臨也はピクリと反応する。しかし男の手は性を思わす動きは一切見せず、臨也の身体を労わる様に優しい手つきでゆっくりと線をなぞる様に指を這わす。

臨也には男の行動の意図が分からず、無意識のうちに眉間に皺を寄せていた。



「…で?新羅は何が言いたい上に、何がしたいの。あと腰撫でるな、くすぐったい」

「これでも俺なりに君を労わってるんだよ?本来、男を受け入れる器官ではないところにぶち込んだんだ。医者として体調を気遣うのは当然のことさ」

「そのお医者サマが俺の尻にぶち込んだんだろ。まったく、君って奴は根っからの変態だね。首なしに欲情して、更には男も抱けちゃうんだもんねぇ」

「人を節操なしみたいに言うのは止めてくれないかな。僕が欲情するのはセルティだけだし、こんな関係を結んでるのは君だけさ」

「性欲が溜まってるなら運び屋で解消すればいいじゃん。別に俺はこの関係を今すぐ断ち切ってもいいけど?」

「セルティは君と違って純情なんだ。だからこそセルティは愛らしくて、美しい!そんな彼女に僕の性欲の都合を押し付けては悪いじゃないか。ゆっくり気長に待つってのが紳士ってものだろう?」

「あーはいはい。ま、俺としてもアフターケア万全な君となら安心してセックス出来るし、楽でいい」

「それはどうも」



その言葉から察する通り、彼等は所謂セックスフレンドであった。
快楽主義者である臨也はこの行為自体が好きで、一方の新羅は日々の日常で溜まった欲を吐き出す為の手段として、お互いの利害が一致したが故の関係。そこには一寸の愛もなく、互いの性欲を処理する為の行為だった。

新羅が愛しているのは以前から変わらずセルティだけであり、臨也が愛しているのは新羅を含めた全人類なのだ。彼等に愛はない。彼等は学生時代の友人、そしてセフレ。だたそれだけの関係。



「話が逸れたけどさ、性格悪いなんて今更何なの?」

「あ、まだ続いてたんだね。それ」

「君が脱線させるから話が途切れたんだろう」

「ごめんって」

「いいから。で、どういう意味?」



挑発的に見上げてくる臨也は、先程とは打って変わって楽しそうに笑っていた。そのコロコロと変わる態度と表情はまるで猫を連想させる。懐いたかと思えば引っ掻いて、離れたと思えば擦り寄って。彼はその状況に応じて己の感情を操ることに長け、そしてその端麗な容姿の使い方を熟知している。全体的に美しすぎる臨也は、いつの間にか人を惑わす。
新羅は、臨也と会う以前より既に愛する人がいたから彼の表情に惑わされない。セルティがいるからこそ自分はいるのだと、盲目的に彼女のことしか眼中にない新羅だからこそ、彼等はセフレを続けられる。

けれど―――と、新羅は心中で呟いた。


自分はいい。自分は彼以外に心を捕らわれているから、彼の毒には染まらない。
でも、あの男は違う。



「―――静雄の気持ちに気付いているんだろう」



平和島静雄。彼は確かに、この猫のような男のことが大嫌いだ。自分でも忌まわしいと思っている暴力を全力で揮ってしまうほど、彼は折原臨也を嫌っている。そこに偽りはなく、学生の頃から今にかけて何一つ変わることない。

しかし静雄は新羅とは違い、盲目的に愛する人物がいなかった。それどころか静雄は、人を愛することを恐れている。自分の暴力で愛した人間を傷つけてしまうのが恐いから、静雄は誰も今まで愛さず生きてきた。
そんな静雄の前に現れたのが、折原臨也。静雄の暴力を恐れることなく、屈することなく、挑んできた唯一の人間。折原臨也は平和島静雄にとって災厄であるのと同時に、折原臨也は平和島静雄にとっての“初めて”だった。
どんなに歪んだ人物であれ、臨也は静雄を受け入れた。それは静雄にとって、初めて自分の存在を受け入れられたのと同時だった。


そんな静雄が何れ、臨也の毒に染まってしまうのだと。
新羅は分かっていた。



「…何のことかな?」

「……本当に意地が悪い」

「よく言われる」



けれど臨也はワザとらしく笑うだけで、肯定も否定も何もしない。陳腐な誤魔化しの言葉ではぐらかす。新羅は胸中でもう一度「性格悪いなぁ」と呟いた。


もし、もしも。
自分がセルティと出会わず、盲目的に愛する人がいなかった場合。

その時は静雄のように、コロコロと変化する猫に自分も惑わされてしまっていただろうか。



「(―――ありえない)」



答えは、否。
もし仮にセルティがいなくとも、新羅は臨也に惑わされることはないと自負出来る。

この美しい猫に惑わされてしまった人間の末路を、新羅は誰よりも理解しているのだ。現在のような関係を結んでも、結局はそこまで。深い関係にはならないであろうと断言できる。どんなに美しい猫でも、引っ掻かれると分かっていながら手を出すほど、新羅は酔狂ではなかった。


しかし、知らず知らずのうちに嵌まってしまった静雄は、もう戻れない。
一度でも臨也を美しいと、そう感じてしまったならば静雄はもう彼の纏う毒から逃れられない。

喧嘩し、殺し合ったとしても。静雄はもう、臨也を殺すことなんて出来ない。



「面白いよね。あれだけ嫌って憎んで、本気で殺そうと思ってた相手を、一つのきっかけで簡単に愛してしまうんだ。人間は本当に俺を楽しませてくれる」

「あれ?君にとって、静雄は“バケモノ”なんじゃなかったっけ?」

「“バケモノ”だよ、アイツは。けれど、ね、新羅――――俺を“愛して”しまったアイツは、完全な化け物にはなれやしない。なら俺は、俺を“愛して”くれる存在であるなら、例え“ニンゲン”もどきだとしても返さなければいけない。アイツも俺の愛を受けるべき対象物だった、それだけだよ」



俺が、アイツを“愛する”理由なんて、ね。


紅い唇を吊り上げ、紅い舌でそれを舐めずりする彼の姿はひどく劣情をそそる。最早それは天性とも呼ぶべき一種の才能なのではないかと、新羅は冷静に解析する。
だからこそ、こんなに歪みまくった猫に人は集まる。そして猫から敬遠していた男もまた、それに魅入られた。猫が災いを齎す黒猫だと知っていながらも、人は艶やかな黒に誘われるように惑わされる。

嗚呼、本当に。
なんて悪人だろう。



「……本当に反吐が出るほど最悪だね、臨也」

「そんな反吐みたいな奴を抱く君は、本当に変態だ」

「…―――かもしれない」



そんな猫が誘うように両腕を首に回し、卑しく誘ってくる姿を見て、新羅は笑うしか出来なかった。

あれだけ胸中で悪人だの、災いだの、散々なことを吐き捨てても目の前にいる彼は、やはり美しいのだ。それは否定のしようがない事実だった。
静雄が臨也に惹かれ、“愛して”しまったことを分かっていながらも、新羅は今日までこの関係を続けていた。そしてこれからも、自分と愛する彼女が本当の意味で一つになるまで新羅はこの関係を止めるつもりはなかった。


それに対し、何の罪悪感も湧かない自分は、果たして目の前の災厄の元である黒猫のことをとやかく言う資格はあるのだろうか。



「ね、臨也」

「なぁに?」

「今度さ、静雄と三人でシてみよっか?」

「………君も相当な外道だね」

「君ほどではないよ」

「そんなことないと思うけど…でもさ、」



クスリと歪む紅い唇が、自然な流れで耳元に近付き。

僅かに熱を孕んだ声で囁いた。



「新羅のそういうとこ、“愛してる”」

「僕は君を“愛せない”けどね」



背徳も道徳も無視して欲に手を伸ばした自分はきっと、彼と同罪なのだろう。





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性格の悪い新臨。
シズちゃん出てないけど、シズちゃんが可哀想すぎる…!!

…誰か幸せな静臨の書き方を私に教えてください←
浮かぶネタが暗すぎる…ッ!



 
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