※ヤンデレ静雄
来神時代捏造
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それと遭遇したのは偶々だった。


―――その日の放課後。特に予定もなく、いつも一緒に帰っている新羅も用事があるとかで早々に帰ってしまい、俺は意味なく学校にいた。屋上で適当に時間を潰し、グランドで部活動に励んでいる運動部の挨拶を合図に俺はその場から立ち去り、そう言えばまだカバンを教室に置きっぱなしだと今更のように思い出し舌打ちをする。
仕方ない、と溜息を吐いて無人になった廊下を歩き教室を目指す。静寂に包まれた廊下には俺の足音しかせず、それが心地よくて俺の気分は上がった。

そんな時だった。
俺が自分の教室に辿りつき、何の躊躇もなく扉を引こうと手を伸ばした瞬間、中から人の声がして思わず手を引っ込めた。



「(チッ……誰だよ、ンな時間によぉ)」



俺も人のことは言えないが、それでも折角良かった気分を邪魔された気がして眉をひそめる。別に入ってもいいが、何やら中から聞こえる声のトーンからはとても友達同士が会話を楽しんでいる、とは思えなかった。
聞こえてくる声は女のもので、それはか弱くて頼りない。そして時折聞こえてくる「前から…」だとか、「気になってて…」というワードで流石の俺も、今教室内で行われているのが何なのか察する。

要は、告白中ってことだ。
別に俺が口出しすることじゃねぇが、もう少し場所ぐらい選べよと思う。これじゃあ鉢合わせた人間は気まずいだろうが、今の俺みたいによぉ。


なんて悪態を吐きながらも俺は教室に入ることなく、まぁ終わるまで待ってるかとそこから離れようと背を向けたとき、あれだけか細かった女の声が感極まったのか何なのか、突然少しだけ声を張り上げるもんだから足を止めてしまった。

―――…否、違う。

俺が足を止めた正確な理由は、その女が紡いだ“告白相手”だろう名前だ。



『好きなのっ、臨也くん!』

「(はっ?臨也、だぁ?)」

『ずっとずっと前から、好きなの…!だからっ』



信じられなかった。
だって告白されているのはあの臨也で、あんな奴を好きになる相手がいるなんて夢にも思わなかったからだ。

確かに顔は文句なしにいい。顔は眉目秀麗という言葉が似合うし、髪は綺麗な黒色で、目は日本人には珍しい赤のような色をしていて。体も華奢で色も白くて、外見はまるで人形のようにお綺麗なもんだ。
けど、アイツの内面はその外見と反比例するかのように最悪だ。人を見下す態度はとるし、何もかもが歪んで捻くれてるし、丸腰相手にナイフなんざ凶器を持ち出すし、平気で他人を陥れるし、それを見て笑う腐った根性をしてる。

そんな奴を、好きに?
有り得ねぇ、絶対にない。
きっと外見に惑わされただけのミーハーだ。ただの面食いだ。でなければ、あんなノミ蟲を好きになる悪趣味な人間はいない。アイツはそんな好かれ愛されるような存在ではない、もっともっと孤立して、誰からも疎外されている姿がお似合いなのだ。


アイツは、誰からも好かれてはいけない。
アイツは、誰からも愛されてはいけない。

――――アイツは好かれ愛されるべき存在じゃ、ない。



『……気持ちは嬉しいけど、ごめんね?俺、他に好きな子がいるんだ。だから君の気持には答えられない』

「(…何、言ってんだ?)」



好きな奴がいる?だからごめん?
コイツは何言ってんだ、ノミ蟲の分際で。

お前が好きなのは人間だろう?
愛してんのも人間だけだろう?
どうせそれも得意の嘘っぱち、この女を適当にあしらう為に言った冗談だろ。


だって、ありえねぇだろ。
手前に好きな奴が出来るなんて、悪い冗談としか思えねぇ。
手前は誰にも好かれるわけがないんだ、誰にも愛されるわけもない。

なのに、そんな手前が個人一人を好き?愛してる?
――――気持ち悪ィこと言ってんじゃねぇよ、臨也のくせに。



『…そっか。ごめんね、臨也くん……放課後まで付き合わせて』

『いいよ。佐倉さんの気持ちは嬉しかったのは本当だから。他に良い人見つけなよ』

『……ありがとう』



気持ち悪ィ気持ち悪ィ気持ち悪ィ!!!
ふざけんな、何なんだ。手前はそんなお優しい人間じゃねぇ、もっと歪んで腐って捻くれた最悪の奴だろう。なのに何でそんな風に生易しいこと言って、気遣いの言葉言ってんだよ、気色悪ィ。手前はそんな出来た奴じゃねぇだろうが。もっと、もっと、もっともっともっと、誰よりも汚い奴でそんな風に他者を思いやれるような人間じゃない。

手前は、クソみてぇなノミ蟲野郎なんだ。だから好かれてはいけない、愛されてもいけない。
他の奴に好かれるな、愛されるな。その為には優しくするな、気遣うな。誰の心に残るな、覚えられるな。


――――誰も見るな、誰にも見られるな。



「―――…あれ?シズちゃんどうしたの、こんな時間まで」

「……っるせぇよ…」

「あはっ、機嫌悪いねぇ。ま、俺には関係ないし……じゃあね、シズちゃん。君も早く帰りなよ」



女が教室を去って、臨也一人が残された教室に俺は何食わぬ顔で入った。すると臨也は今まで告白されていたなんて思わせないほど自然な受け答えをする。当然だ、臨也にとっては告白なんざ気に留めるような大したことじゃない。あの佐倉って女も、臨也の脳内にはもういねぇ。
俺と対峙する臨也は相変わらず厭な笑みを浮かべて、俺の癇に障る。けどそれが臨也なのだ。忌まわしき存在である、折原臨也。こいつはこうでないといけないのだ。

優しさも気遣いも必要ない。
好かれる必要も愛される必要もない


なぁ、そうだろ?臨也。



「…いーざーやーくんよぉ。俺が手前見て、素直に帰すと思ってんのかぁ?」

「え゙っ!?ちょっ、ちょっと待ってよシズちゃん!もう放課後だよ?俺、今日は特に何もしてないよ?なのに何でそんなにキレてんの。その片手に担いだ教卓はなんなの。ていうか俺、本気で帰りたいんだけど」

「ごちゃごちゃうるせぇな…。俺が手前を見てムカツク、もう手前の存在がムカつく、つーことで死ね。分かったかこのノミ蟲野郎おおお!」

「全っっっ然、分かんない!理不尽にも程があんだろ、シズちゃん!つか、教卓……ちょっ、こっち向けて投げてこないでよっ」



ストップストップと言いながら走る臨也目掛けて教卓を投げつけるが、それはあっさりとかわされて臨也は教室から飛び出して行った。俺は教室に来た本来の目的であるカバンを引っ手繰り、逃げ去った臨也を全速力で追いかけた。
途中、教室から出てきた佐倉と呼ばれた女と擦れ違った気がするが俺に追いかけられている臨也は女の方を見向きもせず、走りながら俺の罵倒を続けていた。やっぱり臨也にとっては、あの女のことは気に留めるような存在じゃない。何せアイツは、今は俺に追いかけられているんだから。


そうだ、これでいいんだ。
臨也が気に留める人間はいない。アイツが愛しているのは“人間”という種族であって、人間個人を好いているわけではないのだ。だからそんな奴相手に、臨也が覚えておく必要はない。

コイツの脳内を占めるのは俺だけで十分なのだ。



「っ、ほんとに…何なんだよシズちゃん!なんで追いかけてくんのっ!?」

「手前がムカつくからに決まってんだろうが!!手前のせいだ、ノミ蟲!分かってんのかこの野郎!!」

「はァ!?だから意味わかんないって!お願いだから説明してよっ、つか説明しろ!」

「うっせぇ!そんぐれぇ分かれ!察しろ!悟れ!とりあえず手前のせいだっつことは知っとけ、いーざーやくーんんんん!!!」

「うわああああ、シズちゃんの横暴!理不尽!鬼畜!」



逃げる臨也、追いかける俺。
アイツが捕まるまで続く追いかけっこは、今日という一日が終わったとしても続く。

明日でも一週間後でも一ヵ月後でも一年後でも。
臨也が俺に捕まるまで、俺はいつまでも追いかけてやる。


――――だって、そうだろう?



「(手前を好きになれるのも愛せるのも、俺だけだ)」



だから臨也。
手前はやっぱり好かれる必要も愛される必要もねぇ、よなぁ?









「――――ねぇねぇ、聞いた?」

「B組の佐倉さん」

「襲われて重傷だって」

「それでね佐倉さん、」



「学校、辞めるんだって」






「いざやああああ!!!」

「この前の理不尽のお返しだよ、シズちゃん!」

「てめっ、ぶっ殺す!」

「シズちゃんの方が死ねよ!」



――――ほらな。

やっぱり臨也は気に留めない。





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ヤンデレシズちゃん。
臨也をひたすら好きなシズちゃんを目指したらこうなった…!
全国の佐倉さんすみません!!

けど、攻めの病みは大 好 物 だ っ!
ヤンデレシズちゃんは可愛いと思う。(真顔)


そして告白に紳士な折原氏。
流石は素敵無敵の将来有望な情報屋。



 
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