帝臨→静・帝人視点
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最初に見たときは、とても綺麗な人。
関わってはいけない人物だと友人に言われ、僕もそれに頷いた。けどあの人を見たとき、心の奥底からあの人と関わりたいと望んでしまった。
あの人の視界に入りたい、あの人が僕のことを少しでも考えてくれればいい。何度か会うにつれ、その想いは強くなっていった。
―――けれど、あの人の視界の中や思考の中はいつも僕ではない、別の人。
あの人と犬猿の仲であり、人間愛を掲げるあの人が唯一愛せなかった人間。言いかえればその人は、あの人にとっての特別な存在だった。その人が居る限り、僕があの人の特別に為り得ることなんてないんだと悟った。
「いーざーやぁぁぁ!!手前ッ、池袋に来ンじゃねぇぇぇ!」
「あははっ、俺がシズちゃんの言うことなんて聞くわけないじゃーん!バッカじゃないの?」
「死ねノミ蟲!」
「シズちゃんの方こそ死んじゃえ」
あの人は厭な笑みを浮かべて笑ってて、あの人の特別は青筋を浮かべてキレていた。そして自動販売機をまるで玩具のように待ち上げて投げ飛ばすその力は、やはりあの人が特別に思うだけあって普通ではない。僕には―――否、他の人間にも不可能なことを、彼は簡単にやってのける。
そして彼は、あの人に惑わされない。あの人に従わない。あの人に流されない。良い意味でも悪い意味でもあの人の理屈と想像と予想を覆すことが出来るのは彼だけだった。それも彼が特別になる一つの理由なんだろう。
僕には真似できない。僕では彼の代わりにはなれない。あの人もそれは望んでないだろうから、代わりになろうなんて思わないけれど。
でも僕は、それでも彼が羨ましくてならない。あの人の唯一特別でいられる彼が。僕では絶対に手に入れることが出来ない場所に居続けれる彼が羨ましくて、妬ましくて、仕方がない。
あの人の―――臨也さんの特別に、憧れた。
「(なんて……不毛すぎる)」
ハァと重い溜息が自然と零れた。そんなこと思っても叶わないというのに、僕はそれを分かっていながらいつまでも想い続ける。本当に不毛だ、いっそのこと哀れだ。
臨也さんにとって僕は愛するべき人間の一人にすぎない。ただほんの興味を抱かせる人間の一人だ。けれど彼は―――静雄さんは違う。彼は彼しか持ち得ない能力故に、唯一の存在になれるんだ。僕とは違う、その他人間とも違う。静雄さんだからこそ、臨也さんの特別になれる。僕ではない。
臨也さんが求めてるのは、愛すべき沢山の人間ではない。自分が唯一認めれなかった、自分が唯一嫌悪する存在―――静雄さんだ。
それを静雄さんは知らない。静雄さんは臨也さんのことが大嫌いだから分からないんだろう。臨也さんは自分で気付いているのかは分からないけど、僕はなんとなく分かってるんじゃないのかな、と思う。だって時々、彼と喧嘩をしている最中にすごく悲しそうな顔をするのを僕は知ってるから。臨也さんを見続けてきた第三者の僕だからこそ分かる事実だ。臨也さんは多分、悲しいんだろう。唯一の特別に拒絶されることが。
だからこそ、不毛なんだ。
「殺す殺す殺す殺す!絶対ぇ殺す、手前だけは殺す、殴り殺す!」
「殺すだの死ねだの物騒だねぇ、シズちゃん。あともう少し言葉を覚えたらどう?君との会話はいつも同じ言葉ばかりで心底つまらないよ」
「うるせぇ!俺は手前なんかと会話する気は更々ねぇんだよ!いいから俺の視界から消え失せろ、クソがっ」
「……ヒドイこと言うよね、ほんと」
「(あ、傷ついた)」
静雄さんの何気ない言葉一つで、臨也さんは顔を歪める。それなのに静雄さんは何で気付けないんだろう。あんなにも悲しそうに影を落とすのに、どうして静雄さんは、どうして気付けないんだろう。
僕ならあんな顔させないし、あんなこと言わないのに。僕がどんなに望んでも手に入らない立ち位置にいるのに、どうして気付かないんだろう。どうして、どうして彼なんだろう。どうして僕じゃないんだろう。
僕はこんなにも望んでるのに、静雄さんなんだ。何でだろう、どうしてだろう。こんなこと誰も救われないし、誰も得なんてしない。こんな一方的なベクトルなんて悲しいだけだ。
どんな形でも彼と関わろうとする臨也さん、何も知らず何も気付かないまま傷つける静雄さん、そして全て分かっていながらも諦めることが出来ない僕。
きっと、僕自身が楽になるだけなら臨也さんのことを諦めればすむ話なんだろう。臨也さんに対しての感情を捨て切れば何の問題もない。僕は最小限の傷で楽になれる。
―――嗚呼、でもそれは無理な話だ。
「あ、帝人くん!」
「…こんにちは、臨也さん」
「こんにちは。そして助けて!シズちゃんってばしつこいんだよっ」
「あってめ、コラ!関係ねぇ人間巻き込むんじゃねぇ!ついでにしつこいのは手前だ、ノミ蟲!!」
「どう考えてもしついこいのはシズちゃんだろ。毎回俺のこと追いかけまわしてさ!あと、帝人くんは関係なくないから」
二コリと僕に頬笑む臨也さんは初めて見たとき同様、とても綺麗だ。
けどそれは、静雄さんに向けるものとは違う。その他大勢に見せる、作られた綺麗な笑みだ。臨也さんにしてみれば僕の立ち位置はそんなもの。分かってる現実に、少しだけ泣きそうになる。
それでも尚、僕は臨也さんを諦められない。僕は楽になれない。
だって、仕方ないんだ。
「―――だって、俺の“コイビト”だし。ね、帝人くん?」
「ええ、そうですね」
形だけしかないこの甘い関係を、僕は自分から断ち切ることなんて出来ない。
だから僕は諦められない。
臨也さんを、手放せない。
だから今は、この関係に溺れていたい。
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帝臨→静の泥沼関係。
帝臨増えてくれないだろうか…。
そしてこんな感じの帝人の片想いな感じでも、最終的には帝臨に納まることを私は望む!
もう最終的に帝臨→静から、帝臨←静になればいいんではないだろうか。
あ、因みに臨→静のときのシズちゃんは鬼畜ドSな酷い奴で推したい。
…戯言が長すぎた。