折原臨也という人間は、とても頭が良い。そして本能のままに生き、自重や自粛なんて言葉を知らないのだろうかと思わせるぐらい、自分に素直だ。

現在の仕事が自分の趣味からの延長だってのが良い例だ。臨也は人間が好きらしく、人間をの生態を観察したいらしい。残念なことに大変よろしい頭脳はそんなことの為に使われ、臨也の興味を満たす為に使われる。自分に素直な臨也は、その頭を使って自分のやりたいようにする。


けれど俺は時々、そんな臨也が馬鹿なんじゃないかと思うときがある。
それがまさに今である。



「はい、ドタチン」

「…まず聞こう。何だこれは」 

「日頃の感謝の気持ちを込めてのプレゼントだよ。ほら、何だかんだで俺ってドタチンにはすごく感謝してるんだよ、高校の時から色々お世話になってたっていう自覚はあるし。それで今日珍しく仕事もなくってね、特にすることもなかったからドタチンにプレゼントを用意してみたんだよ。この俺特性のプリン。流石俺って言うのかな、やっぱりやろうと思えば何でも出来ちゃうらしくってコレも今日初めて作ったけど味は保証するよ。だから安心して受け取ってよ、ドタチン」



相変わらずよく回る舌で永延と言葉を並べる臨也の顔は始終笑顔のままだ。元々、恐ろしいほど整った顔立ちをしている臨也が笑む姿はまるで人形のようで綺麗だ。その笑みに騙される人間はごまんといる。事実、高校の時に沢山の人間が騙され、唆されていたことを俺は何度も見てきた。褒められたことではないが、臨也はそれだけ人間の本質を見抜く能力に長けている。

そんな臨也を馬鹿だと思うのは多分、俺はそれだけ臨也と付き合いがあるからだろうと思う。それを言えば静雄や新羅にだって言えたことではあるが、俺の場合、何故だか異様に懐かれているようなので知らず知らずのうちに俺自身も臨也の世話を焼くようになり、知らず知らずのうちに折原臨也という本質を見抜く能力を手に入れたらしい。不本意に手に入れたものではあるが、別に嫌ではないと思うあたり俺は相当臨也に甘いと自負している
確かに臨也の性格は普通とは大分かけ離れているだろうし、していることやっていることは決して良いことではない。けど、それを知っていても尚、臨也の世話を焼きたいと思う俺は最早どうすることも出来ないんだろう。まるでどうしようもない子供を、それでも見守ってしまう親のような気持ちだ。


頭が良く、好奇心旺盛で、変わった趣向と変わった性格をしている臨也。そんな臨也を何だかんだで見続けてしまう俺。だからこそ俺には分かってしまう、こいつの笑顔の下に巧妙に隠された本心を。



「お前って奴は……どうしてそうなんだ」

「何が?」

「どうしてそう、素直になれねーんだって言いたいんだよ。俺は」

「…意味分かんないんだけど。俺はいつだって素直に生きてるし、いつだって直球だよ」

「ああ、そうだな。いつもだったらな。けど、お前はアイツが絡んだ途端に変化球になるからややこしい」



臨也は素直だ。そしていつだって自分の思った行動だけをし、自分の思い通りに動く。
けれど、そんな臨也には唯一の例外がいる。人間の本質を見抜くことに長けた臨也が唯一見抜けず、人を操ることが上手い臨也が唯一操ることが出来なかったヤツ。それが静雄だった。

何に対しても素直な臨也が素直になれない、たった一人の例外。



「本当はそのプレゼント、静雄の為に作ったヤツだろ?アイツ、甘いもの好きだもんな」

「……何で俺がシズちゃんなんかに作ってあげなくちゃいけないんだよ。ドタチン、馬鹿じゃないの」

「じゃあ何で俺から目を逸らしたんだ。違うなら俺の目を見てハッキリと言え」



そう言えば簡単に口籠る臨也は、普段の飄々とした態度からは考えられないほど動揺しているに違いない。本心を隠すことが上手い臨也だが、一度その本心を突かれると一気に分かりやすくなる。
大抵の人間は、嘘がバレた時は無意識のうちに視線を忙しなく動かして動揺を隠そうとする。それを俺に笑いながら教えてくれたのはお前だったな、臨也。その時の台詞を今度は俺から言ってやれば、多分ものすごく顔を顰めるんだろうな。

俺はそんなことを考えつつ、少し機嫌の悪い臨也を見ては苦笑する。ついでに頭に手を乗せ、一向にこちらを見ようとしないコイツの機嫌が治まるようにと撫でてやる。



「…どうしてドタチンには気付かれちゃうんだろ……」

「何年お前と付き合ってると思ってるんだ。それぐらい分かるだろ」

「ほんと、ドタチンには敵わないなあ…。降参だよ、こうさーん」



やれやれとばかりに首を振り、俺と同じように苦笑する臨也は隠すことを諦めたらしい。俺のプレゼントと称したソレを力なく垂れ下げ、あからさまな溜息まで吐く。



「……昨日、ちょっと口喧嘩したんだ」

「ああ」

「原因は下らなさ過ぎて忘れたけどなんか凄くムカついててさ、シズちゃんなんか大嫌い!って子供みたいなこと言ってつい逃げちゃったんだよ」

「それでプレゼントか…」

「まぁね。仕事が無かったのもほんとだし、原因は何にしろそんなこと言って逃げたことは悪いって一応は思ってるんだよ。シズちゃんを傷つけたっていう自覚もあるしさ」

「だったら何で素直に静雄本人に渡さないんだ」

「……だって…昨日のことシズちゃんが怒ってて、俺に愛想尽かせてたらって思うと自然と、ね?」

「ね、じゃないだろ。ったく…」



だからって俺のところに来るなよ、と小さく呟けば、自然とドタチンのところに来ちゃうんだよ、とよく分からないことを自信満々に言われた。それは頼られているのだろうけど、何かあるたびに毎度毎度来られる俺の身にもなってみろ、とは言えない。
きっと臨也は分からないんだろう。静雄がどれぐらい臨也のことを想っているのか、静雄がどれだけ臨也のことを心配しているのか。臨也からしてみてば俺は親みたいな友人で、俺からしてみれば臨也は子供みたいな友人だけど、静雄からしてみればそうではない。いつ臨也を俺に取られてしまうのではないかと、いつだって俺を危険視している。それを知らない臨也は何かあれば俺を頼り、俺も分かっていてもつい臨也を甘やかす。

俺と臨也の間にあるのが親愛や友愛だとしても、静雄の中での俺は最大の敵として認識されている。まぁ最も、それには否定しないでおくが。



「(もし臨也を泣かせたら多分、俺も冷静じゃなくなるだろうしな…)」



泣かせるような奴に、臨也は任せられない。やっぱり泣かせた時は多分じゃなくて絶対冷静ではなくなるな。臨也には幸せになってほしいと思ってる分、泣かせる奴は許すわけにはいかない。例えそれが静雄であろうと、な。

今回は泣いてもないし、臨也が悪いと思ってプレゼント用意してるぐらいだし、手助けしてやるけど。



「とりあえず臨也、お前は静雄のところ行って素直になれ。それもちゃんと静雄に渡せ」

「…大丈夫だと思う?」

「大丈夫だ、そこは心配するな。もし何かあったなら俺を頼ればいい、今みたいに話を聞いてやることはいくらでも出来るからな」

「ドタチン……いや、お母さん…!」

「誰がお母さんだ。いいから行って来――――って、ああ。その必要もなさそうだな」

「え?」





「お迎え、来たぞ」



そう俺が言ったのと同時に、臨也の体は俺から少し離され、首にはしっかりと両腕が絡んでいた。臨也は背後から抱き締められている形なので顔は見えていないだろうが、真正面で対峙している俺にはその鋭い視線が突き刺さっていて思わず苦笑する。

やはり俺は、彼にしてみれば最大の敵なようだ。



「し、シズちゃん…!?」

「うるせぇ、手前は少し黙ってろ」



臨也の体を反転させ、自分の胸に押しつけるように閉じ込めた静雄の視線は相変わらず俺に向いたまま。チラリと臨也を一瞥すれば、薄く赤に染まった耳は静雄の手で塞がれていた。

静雄は俺に言いたいことがあるからそうしているのだろう。



「臨也が、世話になったな…」

「そうでもねぇさ。もう慣れたからな」



けれど、静雄も臨也と同じ。やはり口に出して素直には言えれない性質なのだ。結局は俺に何も言えず、そして俺の言葉にピクリと反応して、また俺を敵視する。

ならいっそのこと、今の機会に俺も言わせてもらうとしようか。



「なぁ、静雄」

「あ?」

「臨也を泣かせる奴に、俺は臨也を任せておけねぇからな?」



肩を竦め、本心を言ってやる。そう言えば俺が臨也のことに関して静雄に何か言ったのは初めてだ。

静雄は一瞬だけ目を見開く。けどすぐにその口元には笑みを浮かべ、挑発的に俺に言う。



「――――上等だ」



その日きた臨也からのメールに、十個ほど用意したプリンを静雄が全部食いつくしたという惚気に似たことが書かれていた。そんな報告に俺は溜息を吐きつつも、世話の焼ける同級生のような子供と同級生の友人の幸福を願い、少し笑った。





------

naka様に捧げます!
臨也が照れてんじゃなく、ただの乙女だ…!!
そしてシズちゃんの出番が少なく申し訳ないです。
そしてドタチンママンを私は激しく所望する!←



 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -