『…門田と、仲良いんだな』



臨也にそう尋ねたのが昨日。



『そりゃあ俺、ドタチン大好きだし。俺は仲良いつもりだよ』



臨也にそう肯定されたのも昨日。



『…―――そうか』



臨也から背を向けたのも、昨日。


そして今日、俺の苛々は最高潮だ。今日はまだ臨也に会うどころか見かけてすらいねぇのに、昨日の苛々なんか比じゃねぇほど俺の心中は荒れていた。
自分でもどうしてこんな風になってんのか分からない。そして、どうして昨日の臨也の台詞を思い出してるのか分からない。ついでに言えば、昨日の俺も分からない。

何で臨也から逃げるみたいにあの場から離れたんだ。臨也を追い詰める機会なんてそう滅多にねぇんだし、日頃の鬱憤を込めて仕返しすれば良かったのに、俺はしなかった。出来なかった。
俺は少なからず、昨日の臨也の肯定に衝撃を受けたらしい。何せ昨日はあんなに怒ってたのに、今では思い出せないのだ。あの場面が、あの言葉が、何度も何度も流れて鬱陶しい。



「やぁ、静雄君」

「……何だ、新羅か」

「どうしたんだい?今日はいつにも増して顔が恐いよ」



ついに人でも殺したのかい?と、冗談をまじえながら新羅は俺の目の前の席につく。普段の俺ならそれに多少なりとも反応をするが、今日の俺はそんな余裕がない。言い返す言葉よりも、溜息が出る。その溜息の理由も分からねぇけど。

流石に何も言わない俺を不審に思ったのか、新羅は俺の方へ振り向き、困ったように眉を寄せた。



「…本当にどうしたの。昨日、臨也と何かあった?」

「―――!」



臨也という名前をあっさりと言い当てられ、思わず新羅の顔を凝視した。そんな俺とは対照的に、新羅はいやに落ち着いていて「やっぱり…」だとか溜息を吐いていた。
それはまるで、俺が臨也のことでこうなることを予期していたかのような反応だ。俺ですら自分のことが分からないのに、他者である新羅が予期出来るとは一体どういうことだ。

そんな思いからか無意識の内に新羅を睨めば、苦笑をされる。



「別に特別何かを知ってるわけじゃないさ。ただ、君がそんな難しい顔する原因なんて臨也ぐらいしか思いつかないからね」

「…そうか」

「そうそう。で、何があったんだい?」

「―――…」



興味津津という風に尋ねてくる新羅に、思わず言葉を詰まらせた。
別に言って悪いことじゃねぇとは思う。けど俺は、臨也のことを愚痴ることはあっても、臨也のことで相談することはない。
そもそも俺が大嫌いなノミ蟲のことで悩むこと自体が変なんだ。アイツの言葉なんて聞き流せばいいのに、それが出来ない。自分でも馬鹿なんかじゃないと思うし、どうかしてんな、とも思う。

そんな、俺でも馬鹿だと思っていることを新羅に言って、果たしてどう反応されんのか。少しだけ言うのを躊躇われるが、いくら考えても分からないなら、俺よりも頭のいい新羅になら何か分かるのかもしれない。



「…このことはノミ蟲には絶対言うんじゃねぇぞ?」



アイツに、俺がこんなことを考えているのを知られたくないので、前もって新羅に宣告した上で、俺は新羅に話してみることにした。











ポツリポツリと紡がれる静雄君の言葉に、僕の中で半信半疑だった仮定が、揺るぎない確信に変わる。
昨日は門田にああは言われたものの、やはり犬猿の仲としか認識していなかった僕には信じ切れることではなかった。もしかしたら僕と彼の勘違いかもしれないし、静雄君のあの反応は特に意味はなかったのかもしれないと、心のどこかで思っていた。

けど違った。やっぱり門田の言ったことは真実で事実で、現実だった。
第三者の、しかも彼の気持ちを共有出来る僕だからこそ分かることである。


―――ズバリ言おう。

平和島静雄は、あの天敵とも呼べる折原臨也に、恋情を抱いている。しかも無意識の内に。



「……要するに、臨也が君の喧嘩よりも門田に反応したことにムカついて、」

「ああ」

「門田には素直な臨也に腹が立って、」

「…ああ」

「更には、あっさりと門田のことが大好きで仲良いと認めた臨也に苛立った。こんな感じでいいのかな?」

「そうだ」

「…………」



静雄君、それは世間では所謂“嫉妬”って言うんだよ。とは言わないし、言えない。
だってまさか、君は折原臨也が好きなんだよ、って本人を目の前にして言える訳はない。大体静雄君の表面は、折原臨也=大嫌いな天敵と思っているのだから、下手なことを言えない。

言ったら最後。彼のなけなしの理性がプッツンと切れてしまう。



「なぁ、新羅。何か分かるか?」

「………」



分かるよ、すっごく。君は、僕がセルティに対して抱く想いと同じモノを臨也に対して抱いてしまってるんだ。そう、よりにもよって臨也に、だ。
静雄君が普段からノミ蟲やらクソ蟲と比喩している彼に対して、どうしてそんな感情を(無自覚ではあるけれど)抱いてしまっているのかは知らない。彼等は僕の知る限りでは喧嘩しかしてないし、会えば互いの罵り合い、殴り合い、殺し合い。そんな殺伐とした中で、僕とセルティの間にある愛が生まれるなんて想像出来ない。

けれど、静雄君の感情は本物だと思う。
尤も、本人は気付いていないようだけど。



「……残念だけど、静雄君。君の“ソレ”を分かってやれても、僕ではどうすることも出来ない」

「!、分かんのか?」

「まぁね。かと言って、君に教えることも出来ない。これは静雄君が自分で気付くしかないからね」

「ンだ、それ」

「そう睨まないでよ。アドバイスぐらいは出来るから」

「アドバイスだぁ?」



怪訝そうな目つきで睨み上げてくる静雄君の目は完全に据わってる。よっぽど僕の言えない、という返答が気に入らないらしい。相談してきたくせに睨まれるなんて、理不尽にもほどがあるよ。

そう心中で文句を言いつつも、優しい僕は何も分かっていない彼の為に友人として、一肌脱ぐとしよう。



「今日だけでいいから、臨也と普通の会話をしてみなよ。きっと何か分かるかもしれないよ?」



まずは、君が自覚するところから始めてみよう。





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とても気にきく大変出来た子、岸谷新羅。
彼がいないとシズちゃんはいつまで経っても気付けません。笑

臨也はドタチン、シズちゃんは新羅。
…どんだけ周りにフォローされてんだ、ウチの静臨!



 

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