人間っていう生き物は知れば知るほど面白くて、俺の興味をそそる。醜い欲望を胸の奥に抱え、ちょっとしたことで弱くなる彼等はとても愛しい。だから俺は人間が好き、愛してる。
高校になって、友人とも呼べなくもない人間が出来た。少し俺みたいに内面的に問題あるけど、まぁそれでも彼は人間。だから俺はそいつ―――新羅のことも好き。だって人間だから。
けど平和島静雄、あれはキライ。何でかって?人間という範疇を超えた、理屈も理解もきかない規格外のニンゲンだからだ。俺はシズちゃんを人間とは認めたくない。だって俺はシズちゃんのことが嫌いだから。あんな規格外な化け物を人間とカウントしてはダメだ。それに何より、俺は理屈も理解もきかない平和島静雄という存在が根本的にキライ。人間の範疇を超えたシズちゃんは、俺の範疇も超えている。
「あ、おはよー。ドタチン」
「…臨也か。珍しいな、お前が朝から登校してくるなんて」
「今日はシズちゃんと会わなかったからね。すんなり此処まで来れたんだよ」
「あんまり静雄をからかってやるな」
「えぇー?何?ドタチンってば、シズちゃんの肩持つの?」
「そういうわけじゃない。ただ、それだとお前も静雄も怪我しないだろう?」
「ははっ、心配してくれるんだ」
「まぁな」
だから程々にしろよ、とドタチンは苦笑しながら俺の頭を撫でる。同級生の同性相手に頭を撫でられるなんて屈辱的だけど、ドタチンにされるのはいい。だってドタチンだから。
ドタチンは優しい。俺が今まで見てきた人間の誰よりも。だって俺のこの性格を知っても尚、こうやって苦笑しながら心配してくれる。俺は全然これぽっちも罪悪感なんて沸かないけど、端から見れば俺とシズちゃんの喧嘩は四十八句俺が悪いのだろうけど、ドタチンはそんな俺をあっさりと受け入れる。仕方ないの一言で片付け、でも度が過ぎれば俺を制止する。ドタチンもまた、新羅とシズちゃん同様、今までにない人種の一人だった。
新羅は友人として、人間として好き。彼が如何に変態で救いようのない奴でも、人間であるから。
シズちゃんは人間じゃないからキライ。ていうか、向こうも俺をキライだから周知公認の犬猿の仲で、最早修正不可能なほど仲は壊滅的だ。
そんでもってドタチン。当然ドタチンも好き、だって人間だから。でもドタチンと他の人間の好きは違う。その他の人間よりもドタチンは数段好き。
だってほら、ドタチンってば誰よりも俺に優しいから。
「ところで昨日は大丈夫だったのか?」
「昨日?……ああ、シズちゃん?それがさ、昨日のシズちゃんったら変なんだよ。散々追いかけ回したくせに、俺を追い詰めても殴ろうとしないんだよ?気持ち悪いよね」
「珍しいな、静雄が何もしないなんて。お前が変なこと言ったからじゃないのか?」
「違う違う!俺を追い詰めた時には既にそんなんだったよ。しかも変なこと聞いてくるし」
「変なこと?」
「ドタチンと仲良いんだなぁー、だって。それに肯定したらアイツ、しかめっ面でどっか行ったんだよ。ほんとシズちゃんって訳分かんない」
何を考えてるのか、何をしたいのか、俺にはシズちゃんの言動と思考が分からない。殺し合いの喧嘩をしたいならすればいいのに、昨日のシズちゃんはそうしなかった。ほんと意味不明だ。
俺は席に座り、ハァと溜息を吐く。やっぱりシズちゃんだけはどうしても好きになれないな、と小さく呟いた。その小さな声をドタチンはばっちりと聞きとってくれて、「そう言うな」と苦笑する。
「静雄も静雄で考えることがあるんだ。今はそっとしておいてやれ」
「何それ。ていうか、何でドタチンには分かるの?」
「俺はそれなりにお前達を見てたからな。何となくだ」
「…全然分かんないけど、まァいいや」
ドタチンの言いたかったことは分からないけど、そこまで興味もないし気にしないでおく。シズちゃんが変になる理由なんて俺には関係ないし。
そう言ってそっぽを向けば、正面のドタチンはまた苦笑。まだ分からなくていい、とドタチンは言う。その言葉の裏にある真相は分からないけど、興味もないことを知る必要性はないから聞き流しておく。
「でも、もしかしたら今日も静雄のヤツ大人しいかもしれないから、あまりちょっかいかけるなよ。今日はお前も大人しくしとけ」
「…大人しいシズちゃん弄っても面白くないし、まァいいよ。ドタチンに免じて大人しくしておく」
「ああ、頼む。ついでに偶には普通に会話でもしてみたらどうだ」
「俺とシズちゃんが…?想像しただけでも気持ち悪いんだけど」
「案外、普通に話出来るかもしれないだろう?」
「………俺とシズちゃんがねぇ…」
「無理にとは言わないが、少しは心がけてみてくれ」
どうしてドタチンがそこまで親身になって言ってくれるのかは分からない。犬猿の仲である俺とシズちゃんが会話して、何かなるというのか?……ダメだ、まったく分からない。
だけど、まったく関係のないはずのドタチンがこうも食い下がってくるのは気になる。ドタチンの意図を知るには、言うとおりにしてみればいいのかな。俺とシズちゃんが普通に話すだなんて笑えるけど。それにもしかしたら、シズちゃんの不明な思考回路も少しは読めるかもしれない。
知る必要性はないけど、少しだけ、興味が沸いた。
「分かった。そうしてみるよ」
そう頷けば、ドタチンは楽しそうに笑った。
――――さて、シズちゃんと何を話してみようか。
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臨也がドタチンを好きすぎて、書いてる途中で吹いたww
そしてドタチンが策士だ。