高校に入って初めての誕生日、零時ピッタリに見たことのない番号からの着信があった。誰だと警戒しながら出れば機械越しから聞き覚えのあるムカつく声が聞こえた。ウザったいことを一人ベラベラと喋りまくり、どうして俺が生まれたのか、今日は自分にとって最悪の日だとか好き放題に言いまくった後、君の大嫌いな俺が一番初めに言ってあげよう、誕生日おめでとうシズちゃんにとって最低な年でありますように、と言い残して一方的に切りやがった。それから毎年のように誕生日の零時ピッタリに毎回知らない番号から着信があった。

高校に入って初めての二月十四日、いきなり茶色い何かを投げつけられた。何だと確認したらそれはスーパーで一枚百円程度で売られている板チョコだった。投げた本人はニヤニヤと笑いながら、ハッピーバレンタイこれ食べてお腹でも壊しちゃえ、と言い残して逃げた。それから毎年のように二月十四日に毎回アイツから百円の板チョコを投げつけられた。

高校に入って初めての三月十四日、アイツを追い掛けると不意に甘いニオイがした。胸糞悪いかったから、そのニオイは何だと聞いたらアイツはカバンの中から綺麗にラッピングされた包みを取り出した。アイツ曰く、お返しらしい。しかもアイツがわざわざ作った菓子だとか。アイツはカバンから取り出したソレを俺に投げ渡し、コレ上げるから今日は見逃してね、といつもの如くウザったい笑みを残して逃げて行った。それから毎年のように三月十四日に毎回甘いニオイのするアイツを菓子と引き換えに取り逃がしてしまっていた。


――――しかし、今年はそのどれもがなかった。
零時ピッタリに掛かってくる見覚えのない番号からの着信も、投げつけられる安い板チョコも、甘いニオイをさせるアイツを取り逃がすことも。
その代わりに今年の誕生日は零時を過ぎれば友人から誕生日おめでとうと書かれたメールが届いたり、会ったヤツからはおめでとうと口々に言われたり、上司からは晩御飯をごちそうになったりした。二月十四日は新しく出来た後輩や妹みたいに可愛がってるヤツ、友人やアイツの妹などからそれぞれ違ったラッピングがされてある包みを貰った。三月十四日は上司に聞いた話だと、二月十四日にモノをくれたヤツに礼をする日らしいので貰ったヤツには上司勧めの菓子を買って渡した。それが今年の一月、二月、三月だ。

その三ヶ月の間、アイツの姿を見かけた日はなかった。つまり、俺は今年まだ一度もアイツを見ていない。池袋には来ていると高校時代からの友人二人に聞いたが、俺はアイツを見つけることが出来なかった。



「(……今度は何してんだよ、アイツ)」



また何か企んでいるのではないのか、それとも一人で意味不明なことを言って人間観察に勤しんでいるのか、
或いは誰か唆しているではないのか。ポンポンと思いつくアイツの悪事は止まることはなく、考えれば考えるほど今こうしている間にもアイツが何かしているのではいのかと余計な勘繰りが働いてしまう。すると段々と怒りと苛立ちが湧き上がり、そしてその怒りと苛立ちは悪さをしているかもしれないアイツのことよりも、毎年行われていたアイツの悪ふざけにいつの間にか方向転換していた。



「(どうして毎年誕生日にアイツの声を聞かないといけない)」

「(どうして毎年安いチョコを投げつけられないといけない)」

「(どうして毎年何が入っているか分からない菓子と引き換えにアイツを逃がさないといけない)」



――――否、違う。



「(どうして今年は何も言わない)」

「(どうして今年は何も見せない)」

「(どうして今年は何も、しない)」



俺は一体、アイツに何を望んでいるんだ。











それは突然の悲劇だった。そして最悪の襲撃だった。



「……一応聞こう。言い訳はあるかい?」

「何で俺が手前に言い訳なんかしねぇといけない」

「よし、帰れ。そして二度と来るな爆発しろ化け物」

「殺されてぇか臨也君よぉ?」

「奇遇だねシズちゃん。俺も今、猛烈に君のことを殺したいよ。今の俺なら君の人外的肉体をナイフで刺せる気がする」



俺の目の前には人外基、俺が大嫌いで大嫌いで溜まらない平和島静雄、通称シズちゃんが何故か然も当たり前かの様な面で堂々と立っている。まったくもって理解出来ない。言っておくが此処は新宿にある俺の自宅兼事務所である。決して池袋のコイツの部屋ではない。それなのにシズちゃんはまるで我が物顔で俺の自宅に力づくで侵入し、突然の来訪や侵入するにあたって無残に破壊された扉などのことを謝ることもなくこうして俺の目の前に立って睨みつけ、挙げ句の果てには殺されてぇのかという暴言。本当に何なのコイツ、マジで爆発してほしい。
どういう訳なのかは知らないがどうやら苛々しまくっているようだ。ただでさえ人相の悪い顔は更に悪くなり、全身から不機嫌さがビシビシと伝わってくる。

だけど、だ。先程の会話を聞いてもらったら分かるだろうが、今の俺はシズちゃんに負けないぐらい苛々しているし不機嫌全開である。普段は温厚な俺でも今は駄目だ、我慢できない。何故なら俺は、去年の十二月中旬から先程までとても多忙な毎日を過ごしていたからだ。やってもやっても仕事、仕事、仕事。一つ片付けたらまた新しい仕事が来るし、それを片付けたらまた、のループである。しかしそれも先程漸く区切りもついたし、ほぼ毎日のように残業してくれた波江も今日は早上がりに出来、さぁじゃあ俺も休もうとソファに雪崩れ込もうとした直後だ。この破壊神が扉をぶち壊して侵入してきたのは。
本当にふざけてる。何なんだコイツ、空気読め。そして俺に休息を返せ。



「ねぇ何なの?悪いけど俺は君に構ってる余裕も気力もないから喧嘩したいらな今度にしてくれないかなぁ」

「…別に喧嘩しに来た訳じゃねぇ」

「じゃあ何なの。さっさと言ってさっさと帰ってよ、マジで」

「何イラついてんだよ、手前」



ぷっちーん。あ、今何かがちょっと頭の中で切れた気がする。いや、これは確実に切れた。

どう思うコイツ。本当になぁに言ってくれちゃってんの?どうして俺がイラついているかだって?
いやシズちゃんは俺の事情なんてまったくこれっぽっちも、一ミクロ単位ですら知らないんだけども。俺の怒涛の三ヶ月を知らないだけども。それでも抑え切れない怒りと苛立ちという感情が俺にもあるわけで、そしていくら事情を知らなくとも俺の感情を沸騰どころか爆発させてくれちゃった犯人が目の前にいるわけで、そしてその犯人はまったく悪びれた様子もなく、寧ろ俺を睨みつけて逆に苛々していますアピールまでされちゃって。


あはははは!
……マジふざけんなよ。



「イラついてる?ああ、そうだね俺はイラついている。それも凄く」

「…あ?」

「はははっ、まったく理解していない呆けた顔どうもシズちゃん、殴り飛ばしたくなるぐらいイラってきたよ。もしも一日だけ君のような人外の肉体が手に入るとしたら俺は今欲しいね。そして君を殴り飛ばす」

「い、臨也…?」

「大体ね君は突然すぎる上に間が悪すぎるんだよ。何、狙ってんの?ワザとなの?だとしたら君も俺のこと言えないぐらい性格悪いよ、最悪最低な嫌がらせですねムカつくなぁ。俺がこの三ヶ月どれだけ精神と気力と体力をすり減らしてきたと思ってんの、どれだけの時間パソコンと書類と睨めっこしてたと思ってんの。そんな精神的にも肉体的にも疲労困憊している俺にトドメをさしに来たとばかりに堂々の不法侵入を成し遂げた君は一体何しに来た、本当にトドメさしに来たのか、それとも嫌がらせですかそうですか。平和島静雄死ね」

「ちょ、落ち着け臨也!とりあえず俺と会話しろ!」

「はぁ?勝手に押し掛けて来た不法侵入者が俺に命令するの?それよりも先に言うことあるだろ、俺の精神状態と身体状態を知ったなら言うことあるだろ」

「…何か、悪い」

「“悪い”」

「………すみません」

「チッ、もう二度とこんなことするなよ次は社会的にお前を潰すから」

「…ああ」



――――俺の怒りが治まり、シズちゃんの突撃理由を聞いたのはその三分後だった。
そしてシズちゃん自身すら気付いていない、彼の俺に対する感情を何となく悟ってしまうのは理由を聞いた十分後だった。


だって俺からの着信がなく、俺からチョコを貰えず、俺の手作りお菓子を貰えないから苛々して、そして自分に姿を見せない俺にムカついて、だから俺のところまで押し掛けて来たんだろう。計画的にではなく、ほとんど衝動的、本能的に動いちゃった結果がコレだったんだろう。

普通は少しぐらい自覚しても可笑しくないのに、君はまったく気付いてないんだねシズちゃん。



「(“俺のこと好きなんじゃない?”って言ったら、シズちゃんどんな顔するんだろう)」



尤も、俺は変わらずシズちゃんのことは好きじゃないから何も聞かないし何の進展もさせないけどね。


誕生日の着信や、バレンタイン、ホワイトデーにどうしてチョコや手作りお菓子をあげたのかって?
何故って――――誕生日早々の嫌がらせと、下剤入りチョコに込められた悪意と、手作りお菓子で得る逃亡手段の為だけである。本当にそれだけ。

だから、シズちゃん。



「…何か、俺もごめんね」

「?何がだ」

「君は知らなくていいんだよ」



寧ろ一生気付かない方がいいと思う。俺も、俺に好意を寄せる君は見たくないから。

だから今年も変わらず、不変で平和的にいつも通り喧嘩をしようかシズちゃん。





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久しぶりの更新です。
受験や多忙のために出来なかったイベントを詰め込んでみました。

結果→シズちゃんが不憫、臨也が酷いで落ち着きました。どうやら今年の私は色んな意味で酷い臨也がいいらしいです(笑)
ごめんねシズちゃん。イケメンで男前なシズちゃんも大好きだけど、乙女寄りでヘタレな貴方も大好きなの('・ω・`)



こんな私ですが、地道にこれからも頑張ります。



 

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