「……俺は何から突っ込めばいいんだ」

「そんなに深く考えなくていいんじゃないかな?門田君は少し考えすぎだよ」

「…そうなのか?」

「そうさ。だってほら、臨也とか見てごらんよ。配布された“しおり”読んで爆笑してる」

「笑う要素が俺には分からんな」

「僕も意味不明さ」



「―――…ところで静雄はどうした?」

「静雄君なら先生のところ。どうやら彼だけ特別に、“しおり”では語られなかった彼専用の注意事項があるらしいから先生の口から直接」

「…ああ、なるほど」

「納得してもらえたようで嬉しいよ」

「先生達も修学旅行の二の舞は避けたいんだろうな。…あれは大変だった。主に教師が」

「そうだね。折角の校外授業が干戈騒乱なんて事態になっては楽しめるものも楽しめないだろうね」

「………やっぱり一つだけ突っ込んでもいいか?」

「どうぞ」



「来神高校始まって以来の最強最悪問題児コンビが揃った今年から、どうして急に遠足の計画を立てた」

「臨也が暇だと駄々をこね、あらゆる情報をネタに教師を脅迫した結果がこの“遠足”だ」

「そうか」

「そうだよ」

「「……………はぁ…」」



何はともあれ、遠足です。











来神高校の校外授業は各学年に一度。一年の頃は親睦を深める為に合宿、二年では修学旅行、三年は日帰りで近くの職場などの見学。高校三年間で計三回の校外授業がある。
しかしその来神高校の校外授業数に不満を抱いたのは、学校始まって以来の問題児だと名高い二人の内の一人。折原臨也である。


修学旅行が終わり、二度目の文化祭と体育祭が終わり、年を越して新年を迎え、三年生が卒業して進級して、新たな新入生が入学して一ヵ月過ぎた頃だ。何の前触れもなくある日突然、臨也はえらく退屈そうな顔で「暇すぎる」と不満を零した。
毎日のように静雄と喧嘩して暴れ回っているくせに「暇すぎる」と零せる臨也には最早、一般生徒の持つ“普通”の感性が理解できないだろう。第三者からは異常ともとれる非凡な学園生活は臨也にとって日常であり、彼にとっての“普通”だった。いくら静雄とまるで殺し合いのような凄まじい喧嘩をしたところで日常化してしまえば臨也にとってそれは「暇すぎる」の一言で片づけられるものだった。

臨也はその一言をきっかけに壊れたように「暇ーひまー」とひたすら連呼するようになった。それに京平は宥めつつも彼の頭を撫で、新羅は笑いながら「臨也うざっ」と吐き捨て、静雄は一人通常運転だった。つまりはいつもの如く怒り狂い、臨也に向かって机やら椅子を投げつける日常を送っていたのだ。
別に臨也は学校生活が気に入らないわけではない。静雄をからかうのは面白いし、京平に甘やかされるのは好きだし、新羅と下らない言葉遊びをするのは楽しい。けれど物足りなかった。日常化されすぎた学校生活に変化を求めた。

何かないかと考察すること一週間。無駄に賢い頭を回転させ、臨也は日常化した学校生活に変化を与えるきっかけを考えまくった。
そしてついに、一週間という短いようで長かった七日間を過ぎた辺りで臨也はある結論に至った。


―――そうだ、遠足に行こう!


こうして臨也はそれを有言実行した。集めに集めた教師達や校長の弱味を全てフル活用して、無かったはずの宿泊研修基、来神高校最初で最後の遠足の許可を意図も簡単にもぎ取ったのである。
学習するポイント皆無なただの遠足である。行って、山を探索して、各グループで晩御飯を作り、キャンプファイヤーをして、次の日は各々好きな時間を過ごし、遊んで帰る。ただそれだけである。小学生並み、正に遠足に相応しい。因みに遠足内容からおやつやお小遣いの指定金額を考案したのは全て発案者である折原臨也だったりする。

最早、臨也自身のしたいことを詰め込んだ、臨也の為だけのと言っても過言ではない遠足である。
しかし生徒達が、臨也の自己満且つ暇潰しで計画された遠足に喜んだのは仕方のないことかもしれない。高校三年生なんて文化祭や体育祭、そして日帰り校外授業といったイベントごとが終われば勉学に勤しむしかないのだ。臨也が己の欲求を満たす為にしたこととは言え、生徒達は心の底から臨也の自由奔放な身勝手さ に感謝した。尤も、臨也本人が知ることではないけれど。



「いやぁ、絶景だね!山に来ると遠足に来たって感じするよねぇ」

「そうだな……ってコラ臨也!一人で勝手に行くんじゃない。迷子になったらどうする気だ」

「…ごめん、パパ!」

「ぶふっ!!パパだって、門田君!僕もパパって呼ぼうか……って静雄君ーッ!?どうしたの!?何で君そんな顔真っ青で倒れそうなの!?」

「いや…車酔いが激しくて……気持ち悪ィ」

「ああっもう!だから乗る前に酔い止め飲むかって聞いたのに!どうして言わないのっ」

「……ドタチン、ママがいるよ。ママが」

「…ああ、母親だな」



臨也と京平は、顔を青褪めさせてその場にしゃがみ込んでいる静雄を介抱しつつも叱る新羅の様子を他人事のように見つめながらそう感想を述べた。同級生の男にママと云うには些か可笑しいだろうが、しかし今の新羅と静雄のやり取りを見た人間は少しだけ新羅をママと呼ぶ理由も分かってしまうことだろう。現に、四人を遠巻きに見ている生徒達は二人の呟きにひっそりと同意してしまった。
まったく要らない余談ではあるが、周囲の生徒達はそんな四人を遠巻きに見ながら彼等の家族でのポジションを瞬時に当て嵌めちゃったりもする。父親に京平、母親に新羅、長男に静雄、長女に臨也である。臨也の性別が可笑しいことになってはいるが、彼の容姿と父親役である京平の可愛がりぶりにより自然と臨也のポジションが長女になってしまったのである。本当に要らない余談である。


そんな生徒達の心中など露知れず、渦中の四人は相変わらずだった。車酔いにより戦闘不能な喧嘩人形、それを介抱する解剖マニア、気遣いの言葉をやる皆の門田さん、腹の底から笑う性格破綻者。まさにフリーダムだった。教師達の胃は始まったばかりの遠足に既に悲鳴を上げていた。まだ問題は起こっていないが、起こりそうな予感がプンプンだった。



「うぅ…駄目だ、まだ気持ち悪い」

「おいおい、大丈夫かよ?昼から山とか行けるか?」

「もし駄目なら無理はしない方がいいよ、静雄」

「ぶふっ……そ、そうだよ、シズちゃん。無理は禁物だよ…ぷッ!」

「手前ェ…ンで、ちょいちょい笑ってんだ」

「笑うだなんてそんな…。弱っているシズちゃんマジウケルとかまさか来神高校最強とも呼ばれる平和島静雄がバスで酔うなんて超傑作だろとかパパなドタチンとママな新羅に心配されている息子シズちゃんの構図が心底笑えるんですけどーとか、そんなこと思って、ないよ…?ぷぷっ」

「いー…ざー…やぁぁ…!!笑ってんじゃねぇぇぇ!……うッ」

「あははははっ!ふはっ、ハハハハハハハッげほ…ゴホゴホ、ゴホッ!やっべ、笑いすぎて、ゲホっハハ、喉いった、い…アハハハハハハハハハッごほ!!」

「ちょっ静雄大丈夫!?そして臨也も大丈夫!?噎せすぎだからッ君!」

「落ち着け、臨也。笑う前に落ち着いて深呼吸しろ」

「む、無理ィ…!は、腹マジ痛ぇ」



「嗚呼、嫌な予感しかしねぇ」と教師達はそっと呟いた。


しかしそんなことなどやっぱり知らない四人は、相変わらず四人のペースであった。
幸先不安です。





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臨也迷子どころか、山にすら入ってないだと…?何故こうなった/(^q^)\

寧ろ私の文の行方の方が幸先不安だよ!!大丈夫なのか加藤、大丈夫じゃないだろ加藤Σ('Д`)


……どうしましょう。←



 

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