あの子と初めて会った時、一瞬にして言葉を失った。
艶やかな黒髪と紅っぽい目、そして綺麗な顔立ち。私とは違ってとてもよく笑う子だった。楽しそうに、嬉しそうに、いつも笑っていた。私はあの子の笑う顔がとても好きだった。

そんなあの子の隣にはいつもあの人がいた。あの人はあの子とは正反対で、無表情が多くてよく分からない人。あの人は好戦的な性格をしていて、私の恩人である彼と鉢合わせれば物騒な物を取り出して戦闘をしていた。あの子はそれを見て、また、笑っていた。
楽しそうに笑う可愛い子。そんなあの子と居る時は、無表情が多いあの人も柔らかく笑っていた。私の恩人である彼や、私が慕っているボスやその他の人には挑発的な笑みしか浮かべないあの人が、あの子と居る時は優しく微笑んでいた。私は、そんなあの人の優しくて柔らかな笑みも、好き。


あの子は私より一個下で、あの人は私の一個上。あの子は私を――ちゃん、と私の好きな笑顔で呼んで、あの人は中々名前を呼んでくれないけれど、それでも呼ぶ時は笑みはないけど柔らかな声で――と呼んでくれるの。私は、そんな二人に名前を呼ばれるのが大好きだった。



―――だけど私達は、日本の高校を卒業してすぐにあの子を一人置いて異国の地へと行った。

本当は離れたくなかった。それは皆も同じ。だけど一番そう思っていたのは、あの子をとても大切にしていたあの人だったのかもしれないと私は思う。本当は一緒に連れて行きたかった。でも、駄目だったの。あの子には日本ですべきことがあるのだと、ボスは悲しそうに言った。それはボスの決めたことではなく、組織にずっと昔からいる、上層部からの決定事項だった。
嫌だ、と言えたならどんなに良かったのか。けれど皆、嫌だと駄々をこねるほど子供ではなかった。あの子もまた、子供ではない一人。あの子も本当は私達と一緒に行きたいと思っていたのかもしれない。でもあの子は、それを聞いて笑って頷いた。



『仕方ないよ。だって今の俺は、君達の足を引っ張ることしか出来ないから』



そんなことないわ、そんなことない。一緒にいてくれるだけで、笑ってくれるだけで、私は―――私達は、嬉しいの。誰よりも笑う、可愛い子だから。私達はそんなあの子だからこそ一緒にいたいと願っていた。だから一緒にいてくれるならば良かったの。

けれど、私の口からその言葉が紡がれることはなかった。
何よりもあの子を大切にしていた、あの子と離れたくないと一番に思っていたはずのあの人が言ったから。



『―――そうだね。今の君では足手まといだ』



―――嗚呼。
そんな悲しい顔なんて、見たくなかったのに。


あの時の二人の顔に私の大好きな笑みは、なかった。





おいでませ、袋!
▼あの子がほしいの





「……凪ちゃん?どうしたの、ボーっとして」

「、ううん…何でもない」

「そう?」



なら良かった、と笑う。私の大好きだった笑顔。今、私の目の前には可愛いあの子が、臨也がいる。私と二人きり。周りには沢山の見知らぬ人で溢れかえっているけれど、そんなもの私の視界には入らなかった。騒がしい雑音も、関係ない。私の耳は臨也の声だけを聞き取る。
ガヤガヤ、ガヤガヤ。そんな雑音よりも臨也の楽しそうで嬉しそうな綺麗な声を聞いていたいもの。

だけど私はそれを口に出して言えない。だって恥ずかしいから。だから代わりに臨也の服の裾を掴んだ。再会した時に着ていたファーの付いている黒いコートではない。真っ黒で、何の装飾も付いていないシンプルなロングコート。臨也の真っ黒な髪と同じ色。すごく彼に似合っていると思う。



「凪ちゃん?」



私が無言で裾を掴んだのに驚いたのか、臨也は一瞬だけきょとんとした顔で首を傾げる。でもすぐに顔を破顔させ、二コリと笑ってくれた。そして服の裾を掴んでいた私の手を握って、次は何処に行こうか、なんて聞いてくれる。
臨也は昔からこうだった。喋ることがあまり得意ではない私の心情を読んで、笑って、手を繋いでくれる。守護者は男の子ばかりでどうしても少しだけ浮いてしまう私を、手を繋いで輪に入れてくれたのは臨也。そして私が出掛ける時、それに付き添ってくれたのも臨也だった。

だから、なのか。

私は今、臨也と一緒に池袋の街にいる。さっきも言ったけれど二人きり。私が昔から臨也と出掛けていたのを知っていたボスが数日前に、観光がてら臨也と出掛けておいでと言ってくれたから。だから今は私と臨也の二人だけ。中学生の頃と同じように臨也は私に付き添ってくれている。
今は昔と違ってそこまで守護者のみんなと隔てはないし、浮いていることはなくなったと、思う。それに今は骸様もいる。昔は私が骸様で、骸様が私だったもの。でも今は違う、実体の骸様がいる。


でも今日は私と臨也だけ。骸様もボスも、嵐の人も雨の人も晴れの人も牛の子も、アルコバレーノも――――雲の人も、いない。
だって他の人にはやることがある。きっと今頃は骸様と雲の人が、動いて、くれてる。



「あ、そうだ。多分この辺に美味しいケーキ屋あるんだよ」

「そうなの?」

「うん。だから休憩も兼ねて行こうか」

「…うん!」



骸様と雲の人が動いてくれているから私は安心して、街をゆっくりと観光できる。臨也と一緒、邪魔はいらない。
折角久しぶりに出掛けるのに邪魔なんてされたくない。出来ることなら、無意味な争いだってしたくない。マフィアなんて組織に属している人間がこんなことを思うのは可笑しいかもしれないけど、それでも争いは好きじゃないのは本心。それに、偶には静かに過ごしたいし普通の生活だってしたい。

こうやって街のど真ん中を歩き回って、買い物したりお店を回ったり、ケーキを食べたりしたいと思う。いつもは思わないけど、偶には、したい。



――――だから要らない。

邪魔なんてしないでほしいの。ずっとずっと会いたかった子に会えて、久しぶりにお出掛けできるんだもん。それを邪魔する人なんて居てほしくない。


それに私は、この子が傷付くことがとても嫌だから。傷をつくってほしくない、痛いとか苦しいとか、そんなことを感じてほしくないの。他のみんなも一緒、誰も傷付いてほしくないし、痛みも苦しみも感じてほしくない。
だってみんな私の大切な人達だから。この子も大切、とても可愛くてとても笑う子。そんな彼が好きで、好きで、大好きだから。



「(…そろそろ、返して)」



―――だって貴方達は“要らない”のでしょう?



早く彼もイタリアに来ればいいのに、と願いながら私は臨也の手を強く握った。
彼は小さく笑ってくれた。





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デート編・クローム視点。

「池袋」のクロームは基本的に身内以外は冷たいです。
クロームにとって臨也は弟みたいで、雲雀はお兄さんみたいな感覚。
綱吉や守護者、リボーンやボンゴレは仲間で骸は恩人、だからみんな大切で大事。

それに害を及ぼす者は何だろうと容赦しない子、それが「池袋」のクロームww
ちょっと腹の黒い子になった感は否めないが……まぁいいだろう!(おい)


ちなみに臨也はプライベートでは「凪ちゃん」、それ以外は「クロームちゃん」と使い分けてたら、いいな…。



 

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