群れは嫌い。弱い奴も嫌い。秩序を乱す奴は咬み殺す。

アイツは群れの中の一人で、その群れの中で一番弱くて、問題を次々引き起こす奴だ。校舎は壊すし秩序を乱すし、変なごっこに僕を勝手に加えてきた。まったく気に入らない奴だ。
だけどそんな彼は時々、僕の本能を揺さぶるほど人が変ったように強くなる。それは赤ん坊に抱く歓喜と同じで、僕を悦ばせる。


そんな強くなった彼と勝負してみたいと、心のどこかで思っていた。普段の彼は戦闘意欲が薄れるほど弱くて、相手にならないから興味はない。だけど、強くなった彼には興味がある。どれほど強いのか、試したい。



「―――と云う訳で、さっさと強くなってみせて」

「そ、そんな無茶苦茶な…」



放課後、誰もいない廊下で偶々一人だった彼を見つけた。多分、補習か何かだったのだろう。彼の成績の悪さは僕の耳にも届いている。まぁ一年の時に比べてかなり向上していると思うけど。

そんな彼に、僕が常日頃から抱いていた願望を告げてみた。すると彼は顔を青褪め、僕から視線を逸らした。草食動物が敵わない相手にする仕草だ。彼はその行為をいつも僕に対してする。やはり普段の彼は弱い。何故なら強くなった彼ならこんな行為、しないと思うから。
だから早く彼には強くなって欲しかった。こんな下らない、弱者がするような行為は止めてほしい。戦闘意欲が殺がれ、興味も薄れる。僕が相手にしたいのはこんな草食動物ではなくて、僕の戦闘意欲を擽る強くなった彼―――沢田綱吉だ。今の沢田に、興味はない。



「君は弱い。だけど時々、想像を超えた強さを発揮する。僕はそんな君を一度、咬み殺したい」

「ちょっ…俺に拒否権はないんですか!?ていうか、咬み殺す前提!?」

「何?僕の言うことが聞けないの?」

「いや、出来れば雲雀さんとは……戦いたく、ないんですけど…」

「僕は戦いたいし、君を咬み殺したい」



また視線を逸らす沢田に苛々する。こんな何処にでもいる弱者がする行為を見たくて、僕は彼に話しかけているのではない。視線を逸らさない、強い彼と戦いたいだけ。弱い沢田に用はない。さっさと強くなって欲しい。それだけ。

けど、沢田は言葉を濁らせながら嫌だ、と呟く。沢田綱吉は無意味な争いは好まないことは知っている。そして、彼が強くなるのは“仲間”という群れの人間を守る為というのも知っている。僕には一生かかって分からないことだけど、沢田がそれで強くなるなら何だっていい。
“仲間”を守る為でも、自分を守る為でも、平和を守る為でも何だっていい。僕が興味のある“沢田綱吉”になるなら、何だっていい。



「君はどうすれば“強く”なって、僕と戦ってくれるの?」

「俺は、雲雀さんと戦いたくないんですけど…」

「それは嫌。僕は強くなった君と戦いたい」

「……何で俺と、戦いたいんですか?」



そんな下らない質問をしてくる沢田に、益々苛立つ。何を今更言っているんだ、と胸中で罵倒し、隠すことなく眉を眉間に寄せる。自然と目つきが悪くなり、目の前の沢田が息を呑んだのが分かる。何て弱い草食動物なんだろう。



「僕は強くなった君に興味がある。だからそんな君を咬み殺したいと思うし、戦いたいとも思ってる。それだけ」

「俺に、興味…?」

「そう。“強い君”に興味がある」



だから早く“強く”なってよ、と告げて“弱い”彼の横を通り過ぎた。今こうして長々と話したところで、彼が急に強くなるわけないし、群れてもいない彼を咬み殺す理由もない。今日はとりあえず僕の願望を告げたし、それだけでいい。
今の彼を何度咬み殺したところで僕の願望は叶わないし、無意味だと知ってる。だから無駄なことはしたくない。もう沢田には用はない。

そう思って通り過ぎたのに、背後で沢田の声が僕の名前を呼んだ。



「…何?」



一応、足を止めて振り向く。その先にいた沢田は、今度は僕から視線を逸らすことをしなかった。何だ、どういう心境変化だろう。今の今までずっと僕を直視してこなかったくせに、どうしたのだろう。
しかもその視線は“強い”彼と同じような目。真っ直ぐと、強い意志を示す目が僕をじっと見ていた。



「―――俺、頑張ります。雲雀さんが求める“俺”になれるように」



まるで誓うように、ハッキリと言いきった沢田と僕が求める“強い”沢田綱吉が被って見える。普段の彼は絶対に僕と視線を合わせようとしなかったのに、今はちゃんと視線が重なっている。何だ、ちゃんと見れるんだ。普段の彼も、ただの草食動物ではないのかもしれない。

そう考えると、自然と口角を上がった。また、沢田の息を呑む音が聞こえたけど気にならなかった。



「楽しみにしてるよ、沢田」

「っ!」

「じゃあね」



再び沢田に背を向けて歩きだす。面白いことを発見した、と少々機嫌が良い僕は見回りを再開した。今日は機嫌がいいから、見つけた草食動物達は八割ぐらいで咬み殺すのを止めてやろうと思いながら、並盛の町に赴いた。


僕が去った後、沢田が誰も居ない廊下で赤面してたなんて知らない。





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綱→(←)雲

ツナが雲雀さんと視線を合わせないのは怖いからじゃなくて、恥ずかしいからだという裏設定。
中学生のツナ様は純情ボーイ!笑
雲雀さんは無自覚で鈍感なタラシだと萌える!私が!←



 
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