私は毛利軍の武将。毛利家現当主である毛利元就様の側近武将であり、元就様の駒でもある。
我が当主、元就様は勝利の為ならば犠牲も厭わぬ冷徹な策略家としてこの戦国の世に名を馳せておられるお方だ。元就様は敵は勿論のこと、味方にも容赦ない。そして自分自身にも大変お厳しい方で、我ら兵を駒だと思うのと同じく、自身すらも駒だと思っておられる。全ては毛利の繁栄、中国の安泰の為だと元就様は言うのだ。

そして各地の武将達が天下を目指す戦国の世では珍しく、元就様は天下などに微塵の興味も示さないお方でもある。だからこそ、各地で天下争いが勃発しても元就様が動くことはほとんどない。また、ご自身から争いを起こすこともない。元就様が動くのは侵略勢力の手が中国へと伸び、毛利と中国の安泰を邪魔する輩が現われた時だけなのである。


しかし、そんな元就様が近頃やけに軍を動かしている。きっかけは中国侵略を目論んでいた小さな国の撃墜から始まった。
その戦の先頭に立ったのは、元就様の“ご友人”だという不思議な男達だった。紅い目の男が楽しそうに策を練り、当日は黒髪の男がたった一人で先陣をきった。いくら名も知れぬ小さな軍であろうと一人で向かうなど無謀だと私を含め、他の武将達も思った。けれど、その思いは一瞬にして打ち消された。

黒髪の男はあっさりと一人で敵の本陣を潰してしまった。そして我らが待機していた場所は、黒髪の男によって蹴散らされた兵の残党の逃げ道。紅い目の男が予測したとおり、敵兵の残党は我等の待機場所へとまんまと転がり込んでくれたというわけである。



そこからだ。紅い目の男と黒髪の男―――折原様と雲雀様、そして元就様の“お遊び”が始まったのは。我等はほとんど何もしていない。ただ雲雀様がいつものように敵本陣を蹴散らし、元就様と折原様の策に我等は従い、残党を捕獲する。時には元就様と折原様も、雲雀様のように本陣に向かったりもする。が、やはり我等はその間もほとんど何もしない、出来ない。折原様曰く、あまり大勢で押し掛けると雲雀様が味方に攻撃をしてしまうから、らしい。
そんなことが続き、毛利は僅か数日で本州を制圧してしまった。各地では急激に勢力を広めている中国を危険視する動きが活発になっていて、元就様は無表情な表情を少しだけ歪め、面倒な、と呟いておられた。

全てを薙ぎ払う何かがあれば、と元就様は言う。全てを蹴散らし、毛利と中国の安泰を邪魔する不安要素を無くす“何か”があれば、と。





「しっ失礼します、元就様!」

「…何の用だ」



嗚呼、元就様が不機嫌そうに顔を歪めておられる。私が慌ただしく駆け込んだせいでございましょう。しかしお許しください、何せあの西海の鬼が、貴方にやたらと付き纏う馴れ馴れしい男が、来てしまったのです。

貴方は好機だと思うかもしれません。何せ西海の鬼が持つ絡繰りは貴方の望んだ働きをしてくれることでしょうから。毛利と中国に害を為す輩を一掃するのに絡繰りは丁度いい。それは私も思います。
けれど、けれど、元就様。今回はあの鬼だけではないようなのです。鬼だけでも厄介で面倒で、本心を言うのならば、さっさと己の国へ帰れ海賊風情が元就様に馴れ馴れしいんだよこの野郎と唾でも吐き捨ててやりたいぐらいなのですが、それでも相手も一応は四国を治める主であり、また同盟国の主でもありますから私共は我慢をしております。言いたい本音を隠し、元就様が良しとするならばと身を引いておりました、が。


――――てめぇ長曾我部この野郎、面倒事連れて来やがって。



「そ、それが……長曾我部殿が―――、」



―――ドッカーン!!
―――ちょっ落ち着い……グハッ!?
―――だ、誰かー!コイツらを止めろォ!!
―――長曾我部殿ォ!!貴殿の連れであろう!?何とか、ぎゃあッ!!



「……何だか、大変なことになってるねぇ、ナリちゃん」

「長曾我部って確か……元就が唯一同盟結んでる相手じゃなかったっけ」

「…その筈なのだがな。………オイ、この騒ぎは何ぞ」



折原様は楽しそうに笑い、雲雀様は首を傾げている。元就様はと云えば、心底呆れたような顔で息を吐き捨てておられる。そして遠くで響く騒音に眉を寄せ、事態を知らせに来た私に視線を向けて説明の催促をする。
私はその冷たい視線に一瞬だけ息を飲んで言葉を詰まらせる。しかし元就様が報告を求めているのならば待たせるなんて論外である。震える声を必死に耐え、頭を垂れ、先程の光景を見たまま報告をしようと口を開きかけた――――瞬間。



「うおおおおりゃあああ!!!」

「ぐはッ!」



視界暗転。思考遮断。
私は敬愛する元就様に報告をする前に、突如飛んできた障害物を躱すことが出来ず、見事にそれにぶち当たって意識をふっ飛ばしてしまったのだった。


そんな名もなき一武将で一つの駒として言いたいことがある。
――――とりあえず元凶である長曾我部は元就様と折原様の策で陥れられ、雲雀様にカミコロされろ。











「何かさっきの人吹っ飛んじゃったけど大丈夫かな?」

「ていうか、何アレ。僕の見間違えじゃないなら、木が飛んできたように見えたんだけど」

「奇遇だな恭弥。残念ながら我にも木が飛んできたように見えた」

「……うーん。何だろう、すごく心当たりあるかも、俺」



木引っこ抜いてごめんねナリちゃん、と眉尻を下げて苦笑気味に謝る臨也に元就は首を振る。「もし心当たりがあろうと、臨也の謝ることではない」と言いながら、冷徹の智将と呼ばれている毛利元就には大変希少価値の高い微笑が浮かんでいる。もしも彼の部下、或いは現在元就の城に突然の来訪を果たしている長曾我部が見たら騒ぎ出すことだろう。

元就は吹っ飛んだ己の部下を一瞥した後、木が飛んできた方へと目を向ける。同様に臨也と恭弥も、そちらへと目をむける。
余談ではあるが、この時の三人は未だに座したままだ。理由は、只今城内で騒いでいる連中が敵意を持って暴れているわけではないと直感的に感じ取っているからである。そしてもっと言えば、彼等の意識の七割が三色団子を占めているからでもある。各々の手は三色団子に無意識のうちに手が伸びているほど、彼等の思考は三色団子である。彼等の言い分を言うならば、「だって美味しいんだもん」である。



――――さてさて、そんな半分以上の意識を三色団子に捧げた三人とは裏腹に。



「臨也ああああ!!てめっ、やっぱり此処にいたのか臨也ァ!!」

「うわぁぁぁん恭弥さんんん!会いたかったですよーッ!!」

「元就ィ!やっと、やっとテメェに会いに来れたぜぇぇぇ!」

「「「(…うわぁ…)」」」



臨也のよく知るグラサンバーテン男は、怒っているのか喜んでいるのか分からない表情で臨也臨也と何度も名前を連呼するし、恭弥のよく知る某マフィアのボスである男は、組織のトップとしてはなんとも情けない半泣き状態の顔で嬉しさを全面的に出すし、元就のよく知る海賊の形をした同盟相手の男は、安心し切ったように顔を緩めてまるで周りに小花が飛んでいると錯覚させるような笑顔を浮かべていた。


だが思い出してほしいのは、彼等が先程までこの城で暴れ回っていた犯人であるということだ。
臨也はグラサンバーテン男を見やる。彼は両手を土だらけにしていた。瞬間的に臨也は悟る、コイツ本当に木引っこ抜いて投げやがったな、と。対する恭弥も自分のよく知る男を見やった。彼の両手には見覚えのありすぎるグローブがはめられており、火まで纏っている。恭弥も悟る、死ぬ気の炎を出して暴れまくったな、と。

そして元就も、上記二人を連れてきたであろう男を見る。彼は他の二人と違って武器などを所持しているわけではなかった。なかったのだが、彼の格好は他の二人とは違ってボロボロであった。元就は思う。
――――ところで城内被害は、この阿呆に請求していいのか、と。



最初から分かっていたことではあるし、分かりきったことではあるのだが、ここで敢えて言おう。

彼等の温度差は、天と地ほどの差があるのだと。



「シズちゃん……何やってんの、君」

「は?」

「綱吉、木造建てのところで炎なんて何考えてるの?」

「え?」

「とりあえず元親、この被害総額は貴様に要求しよう」

「へ?」

「それならシズちゃんも、賠償金払わないとねぇ。ナリちゃんのお城めちゃくちゃにしちゃってさあ」

「はァ!?」

「言っておくけど君もだよ、綱吉。元就の領地の秩序を乱した罰は受けないとね」

「えぇ!?」

「―――ということらしいぞ、元親」

「ちょっ待て!どういうことだよ!?」



冷静に淡々と言葉を紡いでいく三人に、静雄も綱吉も元親も戸惑いを隠せない。漸く会えた自身の恋人達から発せられた言葉は再会を喜ぶものではなく、甘さの欠片もない叱りの言葉である。そしてまた、現実的すぎる言葉でもある。

数日ぶりの再会、恋人との邂逅。普通ならば愛する者と数日ぶりに再会したとなるともう少し感動的なエンディングが待ち構えているだろうと想像できるのに、そんな空気など微塵にも感じさせない冷やかさ。熱い抱擁もなければ、甘い言葉を交わすこともない。彼等の愛する者の口から出てくるのは、元就の城の被害についてどうするか。
臨也と恭弥は、互いの恋人達に妖艶に笑いかけながら返済しないとねぇ、と続ける。元就は元就で、鼻で笑い飛ばしながら自身の恋人に向かって貴様に拒否権などない、と言い捨てた。



「――――ま、要するにさ、」



その“カラダ”で払え、ってこと。



―――必要な“力”は手に入った。

さて、思う存分働いておくれ。
愛しい恋人様。









その後、天下争いは終幕を迎えた。
誰が天下を手に入れたのか、そして彼等はどうなったのか。


―――全ての行く末は、神のみぞ知る。





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玉城とと様に捧げます!

…うん……CP要素がひどいぐらい少ないですね←
ていうか、攻組の扱いがひどい(笑)

その後、攻めの頑張りで天下を統一するのか、それとも他のとこがしちゃうのか。
続きは貴方の妄想の中にあります☆(黙)



 
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