※全体的に暗い、かも
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嫌いだった。

屁理屈ばかり吐き出す口も、薄い狂気を纏った紅い目も、悪事を働く良すぎる頭も、憎らしいほど整っている顔も、アイツを形成する全てが嫌いだ。大嫌い、だった。
出会った当初からアイツに抱いた感情は嫌悪だけで、次に湧き上がったのは憎悪に似た殺意。暴力は嫌いだが、アイツには持てる力全てを使って捻り潰し、抹消してやりたい、殺してやりたいと常々思っていた。奴は存在自体が悪であるから消えてしまえばいい、¥。俺の目の前から、俺の周りから、いなくなってしまえばいい。


俺は、ずっとずっと、願っていたのだ。
アイツがいなくなることを。アイツが、俺の目の前から、俺の周りから、いなくなることを。

死んでしまえばいいのだ、あんな奴、と何度も何度も考えた。願った。



『……臨也が、死んだ』



電話越しで伝えられた突然の新羅の宣告に、俺は喜ぶことも嬉しがることも出来ず、呆然とした。

臨也が、死んだ。俺の考えたとおり、願ったとおりに、アイツは死んだと、新羅はいつになく真剣な顔をして言った。最初は新羅が下らない冗談でも言っているのではないのかと疑ったが、その考えはすぐに却下された。闇であろうが新羅は立派な医者なのだ。例え相手がクソみたいなノミ蟲であっても、新羅が軽々しく「死んだ」と冗談を吐くとは思えなかった。
ならば、新羅が言っていることは、決して冗談なんかではないのだろう。臨也が死んだ。そして俺は二度と、アイツの忌々しい面影を探さなくてもいい。アイツは二度と俺の前に現われないのだから、俺は漸く静かに暮らせる。事件を引き起こしていた張本人は消えたのだ、以前のように頻繁に厄介事が起こることはないだろう。


俺の望んだとおり、アイツは、臨也は、消えた。





――――それなのに、どうして。

嗚呼、どうしてなんだろう。



『静雄…?静雄、聞いてるかい?』

「………、んで…」

『え?』

「なんで…!勝手に、死んでんだよ…クソ臨也……ッ」



俺の目から勝手に零れているのは何だ。胸にポッカリと空いた虚無感は何だ。この感情は、何だ。

臨也が、死んだ。俺が何年経っても、どれだけの力を揮っても、それでも死ななかった臨也が死んだ。俺の知らないところで、俺の知らない理由で、俺の知らない間に、死んだのだ。
ずっとずっと追い続けていた憎き宿敵の死は、決して俺を喜ばせてなどくれない。寧ろ、逆だったのだ。今更になって、俺は知ってしまったのだ、臨也が死んだ今になって気付いてしまった。

臨也の死は、決して良いことではない。
臨也の死は直結して、俺のたった一人の天敵、俺と唯一渡り合えた最初で最後の相手が、いなくなってしまったということだ。俺の力を全て出しきれる、俺の力をある意味受け止めていた相手が、いなくなった。



『…静雄……もしかして、君…』

「…悪ィ、新羅……。電話、切ってもいいか?…今は、誰とも話したく、ない」

『……そう、分かった。ただ静雄、これだけは言っておくよ。臨也はいない。君の前にも、君の周囲にも二度と現われることはない。いくら君が臨也を捜したところで、見つかりはしないよ』

「……何が、言いてぇんだ」

『ハッキリ言おう―――君が今更、臨也への想いに気付いたところで伝える相手はいないんだ。だから君はなるべく早く、臨也を忘れた方が、いい』

「っ――――!」



ガシャンと音を立て、手に持っていた携帯は壁に叩きつけられて大破した。バラバラになった無機質な機械を睨みつけ、耳に残って離れない新羅の言葉が頭の中で反復される。

―――臨也を忘れた方が、いい。

それはつまり、本当に臨也を“殺してしまう”ということじゃないのか。何で俺が臨也を忘れなくてはいけないのだ。駄目だ、俺は忘れてしまうなんて、そんなこと簡単に出来ない。アイツと出会って今まで、全てが非日常すぎて忘れられるわけないだろう。
それに俺は忘れたくないのだ。臨也のことを、忘れたくない。だって、俺は、アイツが、臨也が、多分きっと。



「……ッ、ざけんな…!なんで、死んでんだよ…臨也ァ…!!」



多分、きっと―――俺、は。



臨也がいない俺の世界は今、完全に、閉ざされた。















「……なるほど。喧嘩人形もそれなりに―――否、大分執着していたのか」



予想通りだ、と男は心底楽しそうに喉を震わせ笑った。三日月のように細くなった男の目の奥はまるで馬鹿にしているかのような嘲りを含んでいる。



「いや、違うな。案外この街全体が執着していたのかもしれないな。居なくなった途端、これだ」



窓の外を見下ろした先にあるのは、愛しい街。池袋。以前まで怪奇的な事件が多発し、何かと騒がしかった池袋が今ではどうだ、まるで別世界のように大人しい。
男はすっかり消沈してしまった愛しい街並みを見下ろしながら、鼻を鳴らす。確かに自分は街を愛している、それは今でも変わりはないが、けれどここまで激変してしまった大人しい街に物足りなさを感じてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

何せ、その原因を作ったのは紛れもなく自分自身なのだから。
そして、それをどうにかしようなど思わない。どうにかするぐらいならば、物足りない街を見下ろしている方が数倍にも良い。



「…折角手に入れたモノを易々と手放すほど、俺は馬鹿じゃないからな」



くつり、とまた喉を鳴らす。男は笑う、愛しい街を見下ろしながら、その街で過ごす人間を見下ろしながら、嗤う。
くつり、次第に笑みを深めていく。愉快で滑稽で、面白い。これを笑わずにいられることなんて男には不可能だった。愛しき街が消沈しているというのに、何故だか男にはそれが欣快だった。

嗚呼、楽しい。
男は笑う、いつまでも。



「…―――なに一人で笑ってるんだよ、気持ち悪い」

「気持ち悪いとは酷いな。それに先に言うべきことがあるだろう?」

「………おはよう」

「ああ、おはよう。気分はどうだ?昨晩は散々啼かしてしまったからな」

「っ死ね!この変態野郎!!」

「おいおい、男はみんな変態な生き物だろう」

「ふざけんな、死ね!大体その言い方だと俺までそうなるじゃないか!変態はお前一人で十分だ、九十九屋!」

「…まったく朝から元気だな」



男―――九十九屋は先程まで浮かべていた笑みを引っ込め、その代わりに今までとはまったく違う柔らかな微笑を浮かべ、自身の背後にいるであろう彼の方へと振り向いた。その人物は寝起きと一目で分かるほどで、いつもは綺麗にセットされている髪もところどころ跳ねている。
そのせいか、いつもよりも幾分か幼く見えて仕方がない。九十九屋は寝ぐせだらけの頭を軽く撫でまわし、騒がしい口にもう片方の手の人差し指を当てた。



「不満なのは分かったがあまり声を荒げるな。喉、掠れてるぞ」

「っ、……誰のせいだと」

「俺のせいだな。だから今日はお前の言うことを聞いてやろう」

「…何でも?」

「俺に出来る範囲でならな」

「……仕方ないなぁ。じゃあ今日一日、扱き使ってやるから覚悟しろよ」

「はいはい。お嬢様のおうせのままに」



九十九屋の順応な態度に満足したのか、彼は頬を緩ませては頭を撫でる九十九屋の手に擦り寄る。それがひどく愛らしく、九十九屋も同じように頬を緩ませた。

そして同時に思うのだ。
やはり、折角手に入れたこれほどまでに愛らしい彼を、今更返してやることなんて出来ない、と。



「…?九十九屋?」

「ん?…ああ、なんでもない。それよりもそろそろ朝ご飯にするか」

「俺、フレンチトーストと紅茶ね」

「ついでにサラダもつけてやるから食えよ」

「えー、野菜嫌い」

「いいからちゃんと食べろよ、」









「―――――臨也」



探し求める相手は既に、九十九屋の腕の中にいる。

決して返してなどやらないと胸に強く誓い、九十九屋は今日も愛らしい彼を抱きしめながら愛しい街を見下ろし、静かに嘲笑うのだった。



「(…精々、“死んだ”相手の虚像でも追いかけてればいいさ。なぁ―――平和島静雄)」



“死んだ”後に気付いても、全ては後の祭り。





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…こんなはず、では(グハッ)
何故かいつの間にか九十九屋さんが出てきて加藤も心底驚いた/(^q^)\

リハビリに書いたんですが……前以上の低クオリティに絶望した!!!←



 

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