「…来ない」


これは一体どういうことだろう。確かに沖田総悟という人間はドエスでバカで鬼畜で、愛くるしい顔に似合わず性格は最悪だ。しかし、しかしだ。いくらなんでも可愛い可愛い彼女との初デートに遅刻するとは何たる了見。誰だ公園に9時集合って言ったの。もう10時だよ?あと5分で10時だよ?ありえねーよマジで。いっそのこと帰ろうかな。何回電話鳴らしても応答ないし。

もはや怒りを通り越して諦めモード。慣れない手つきで化粧を施した顔には、きっと不機嫌ですと書いていることだろう。その証拠に、いま横を通った子供が怖そうにこちらを横目で見ていった。よし、帰ろう。そう決心して踵を返した時だった。


『お前それでも人間か!お前の母ちゃん××人だ〜』
「………」


お通ちゃんの着メロが電話を知らせる。いろんな意味で震える手で携帯を取り出し、ディスプレイを見ると、相手はやはり総悟だった。
今更何よと思う反面、馬鹿みたいに嬉しいと思っている自分がいた。


『もも?』


通話ボタンを押した途端、聞こえたのは私の名前。どきん、と心臓が脈打った。


「…何の御用でしょうか」


ああ私って可愛くない。もっと素直になればいいのに。いや、でも今回はあっちが、1時間遅刻するヤツが悪い、うん。そーだ、初デートで待ちぼうけ食らったんだ。簡単には許してやるもんか。まぁ、どうしてもって謝ってくるなら、許してあげないこともないけどさ。私ってばヤサシイ!


『いや、何か用って俺の台詞なんだけど』
「…?」
『用もないのに朝っぱらから電話かけて来んな。睡眠妨害もいいとこでィ』
「……?」


この人は何を言ってるんだろう。睡眠妨害?用もないのに電話するな?………まさか。


「総悟くん総悟くん」
『あ?』
「もしかして、忘れてる?」
『何を』


パズルのピースはそろった。


「しね」
『は?何言って』ブチッ



わすれるなんてバカだ


あんなやつもう知らん。電話を荒々しく切って、これまた乱暴にポケットに突っ込んだ。

ドシンドシンと怪獣のような足取りで家につき、ベタながらもベッドに身を投げる。これを人は、怒りの噴火と称すのだろう。暫くして総悟から電話があった。今頃思い出したって遅いわバカ。当然出る気はなかったものの、あまりにもしつこいので出てみると、「外」の一言だけ言われて切られた。まさかと思いながら、カーテンをちょこっとだけ開ける。すると、家の前には栗色頭。彼は一体どれだけ横暴なのだろうか。心の中で散々文句を垂れつつも、ちらりと見えた鏡に映った顔は、だらしなく口元がにやけていた。さっきまでの怒りが嘘みたいだ。自分の単純さに呆れながらも、帰ってきたときとは間逆の、ルンルンとした足取りで私は総悟の元へと向かうのであった。


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