十一

一通り話を終えた後、風間は天霧に命じて民達が生活用水に難儀をしていないかを確かめさせた。
そして童が発生させた湧き水が飲用に適しているかも、同時に調べにいかせた。

童を疑っている訳では無いが、得体の知れないものはやはり何処か信じきる事が出来ない。
己一人のために向けられた問題ならこうまで慎重にならないだろうが、これには里にいる全ての民の命が関わっているのだ。
彼等の命運を背負うものとして、軽率な判断を下してはならない。

三つ子たちにそれぞれ勉学に戻るよう言いつけて、風間は童を抱き上げて部屋を出た。
その足はナマエのもとへ向かっていた。



『まあ』

帰ってきた夫が眠っている童を抱えている姿を目の当たりにし、ナマエは素っ頓狂な声を上げた。

背を叩いてやっていた千那が丁度おくびを出したので、乳母に預けて下がらせた。
ナマエは立ち上がり、自分の打掛を脱いで童を包んでやろうとしたが、身体を冷やすなと言って風間がそれを押し止どめた。

代わりに、ナマエに童を預けて、奥に置いてあった火鉢を手前に寄せてきた。
これだけでも随分暖かかった。

『存外に早いお帰りでしたね』

我が子に向けるのと同じ優しい眼差しを童へくれながら、ナマエは小声でそう言った。

『少し前に轟音がありましたが…』

末尾を言わずに、隣に座した夫の顔を見る。
風間は感情の読めない顔でナマエの腕の中を見つめていた。
童はまだ気持ち良さそうに眠っている。

『…此奴が、妙な力を使って水場と川を復元させた』

そう切り出して、風間は先程したばかりの話をもう一度口にした。
ナマエはそれを黙って聞きながら、そのような力を使った童の事を考えた。

童は昨晩、湯口からも湯を噴射させた。
あの後暫くしてから適切な湯量になったが、あれも童が何かをしたと思ってまず間違いないだろう。

纏っている気は、やはり人間のものではない。
かと言って鬼のものでもなく、何かと言われると困ってしまう。

腕に抱くと子を孕んでいない時のように身体が軽くなり、笑い掛けられると心を奪われたようになる。

不思議な子、と一言で片付けるにはあまりに人知を超え過ぎている気がする。
そこまで考えて、ふと、この場合“人の知”ではなく“鬼の知”だな、と思うと、変なつぼにはまってしまったらしく、何故だか可笑しくなってしまった。

いきなり忍び笑いをし出した妻を見て、風間は口をへの字にして片方の眉を上げた。



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