夕餉をとり、床に入る頃には、三つ子と童はもうすっかり仲良くなっていた。
漸く一人歩きが出来る様になってきた千那もまた、口の利けない童と何か通じるものがあるらしく、お互い顔を見合わせて笑う、という事をしていた。

明かりを消し、風間の待つ布団の中へ身体を滑り込ませると、ナマエはすぐに抱き寄せられた。
何年経っても、何度身体を重ねても、夫への恋慕の情は薄れる事はなかった。

腹に子がいる間はそういった感情が無くなると聞いた事があるが、自分の場合は当てはまらないなとナマエは思った。
今もこうして触れられると、立ち所に鼓動が早くなる。

『ナマエ、』

中々顔を上げようとしない妻に焦れて、風間が彼女の顎をとって名を呼んだ。
ナマエが躊躇いながら顔を上げると、すぐに唇が奪われた。

『…』

少し息を乱して風間を見る。
彼は何か面白いものを見たかの様に口元に弧を浮かべた。
そしてもう一度、今度は先程より深いものが与えられた。



明けて翌日。
午後はなさねばならない仕事があるとの事で、午前中に川の様子を見て来ると言って風間が出かける支度をしていた。

玄関口でナマエが見送りに立っていると、廊下の彼方から童が勢いよく走って来ていきなり風間の背中に飛び付いた。

『!』

ナマエは驚いたが、風間はしかめっ面をしながらも動じなかった。
童は先程、千束が面倒を見ると言っていたはずだった。

『…あなた、千束たちと一緒じゃなかったの?』

童は風間の背中をよじ登り、肩車の形に納まるとナマエに振り向いて嬉しそうに笑った。

『お前は』

留守番だ、と言って風間は童を引き剥がそうとしたが、何かを思って表情を消し、それを止めた。

『…いや、これも連れて行ってみるか』

その発言の意味を考え、ナマエは昨日の風呂での出来事に思い当たった。
自分達が目を離している隙に、湯口から大量の湯が吹き出していた。
その時近くにいたのが童である。

人の心を容易に掌握し、また、ナマエの体調不良も治してしまうこの童に、何か不思議な能力があるのではないかと考えたのだ。

『ものは試し、ですね』

そう言ったナマエに流し目をくれて、ああ、と言って風間は浅く笑った。

やがて、突然脱走した童を追いかけて、千束が慌ててやって来た。
ナマエは息子に事情を説明してやり、風間と童は二人に見送られて屋敷を発った。
問題の川までは風間の足で四半刻とかからない。

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