『俺と夫婦をやってくれないか』

『…はい?』



こう言われてから、十日程経つ。

隊士であるはずの私は、京の外れで山崎さん…いや、“烝さん”と二人で暮らしていた。



事の起こりは十日前、副長に呼び出された時に始まる。
部屋に入ると何故かそこには、私の上司の山崎さんも居た。
軽く会釈をすると、彼は重々しく頷いてくれた。

『そこ座れ』

『はい』

副長に促されて腰を下ろすと、呼び出した訳を話してくださった。

よくある話だった。
長州勢の一部過激派が最近武器弾薬を集めている。
集めたそれを問屋を装った建物に隠しているという噂が新選組に入って来たので、事の真意を探ってこいという任務だった。

私は女だが隊士をしている。
普段は女中の格好をしてそれの仕事をしており、有事の際は監察方として働いている。
…と簡単に言ってはみるが、ここまでの関係を築きあげるにはかなり苦労した。
その甲斐あって、今は絶対の信頼を寄せて頂いているのだけど。



『承知致しました。
して、今回はどの様な手筈になっているのですか?』

私がそういうと、副長は山崎さんを見やった。
副長の視線を受けて、山崎さんは少し言いにくそうに冒頭の言葉を告げたのだ。



『始めはお前を奉公人に仕立て上げてその問屋に入れる、ってしようと思ったんだがな、そうもいかなくなっちまったんだ』

『何故ですか?』

『その問屋が丸ごと長州の奴等みてぇなんだ』

事前に軽く探りに行ってきた山崎さんの報告によると、老若男女みんな京言葉を使ってはいるが、よくよく聞くと言葉遣いが怪しいらしいのだ。

そこに余所者を一人放り込めば、奴等は警戒して尻尾を掴めなくなるかもしれない、という見解だった。

『噂は限り無く黒に近い。
だが、これと言った決定打が無いと中を改める事は出来ねえ。
そこでお前ら二人の出番だ』

『申し訳ありません。
お話がまるで見えないのですが』

副長が何を仰りたいのかが解らないでいると、そこで再び山崎さんが口を開く。

『今度の任務は恐らく長丁場になる。
中に入り込むのが無理なら、俺が町民を装い長屋住まいをしながら諜報活動をしようと思った。
それなら、君も連れて行って、夫婦として振る舞った方がより怪しまれないだろう、と副長がお考えになったんだ』

そこでようやく合点がいく。
最初は何を訳の解らない事をと思った。
そうならそうと始めから言ってくれたらよかったのに。

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