それから時々下駄箱で鉢合わせるくらいで、特に何もなかった。
会えばおはようくらいは言うけど、別に仲良い訳じゃなかったから。



ある日の放課後。
僕は国語科準備室で土方センセイにお説教をくらってた。
他の教科は普通なのに、俺の授業だけ赤点取るのはわざとかってさ。
嫌だなあ。
そんなのわざわざ呼び出して聞かなくたって、センセイには解るだろうに。

今回は流石にやり過ぎたみたいで、こってり絞られた。
帰ろうと思った時には校内に生徒はまばらになってた。

昇降口に向かってる途中で、複数の楽器の音が聞こえて来た。
空き教室や廊下を使って吹奏楽部が練習してるんだろうな。
吹奏楽部に知り合いでもいたらちょっと顔出すんだけど、別にいないから、そのまま通り過ぎようとした。

そしたら、少し離れたところから低くて力強い音が聞こえた。

頭を何かで殴られた様な衝撃を受けた。
音楽の善し悪しなんて全然解らないけど、何でだかその音には凄く興味をひかれて、気がついたら僕はその音の出所を探してた。

走って走って、その音は音楽室の並びの教室の内で、一番遠い所からしてるって解った。
閉まってる扉を少し開いて中を覗く。
そこにいたのは君だった。

大きなバリトンサックスを首から下げて、爪先でリズムを取りながら楽譜を必死に追ってる。
奏でる音色は、その容姿からは想像つかないくらい格好いい。

結局僕は君が一曲吹き終えるまで固まったままだった。

ふう、と君が大きく溜め息をついたのを見て、僕は扉を開いた。

『!?』

身体全体がビクっとして、君は僕の顔を凝視した。
君、ホントいいリアクションするよね。
これはちょっとからかいたくなるなあ。

『やあ』

声を掛けて僕は君に近付く。

『お、沖田君…どうしたの…?』

さっきのびっくり顔のまま、君は側まで寄った僕を見上げた。
どうでもいいけど、口開いてるよ。

『それが、何とかサックスってやつ?大きいね』

君の問い掛けを無視して、僕は指先で楽器をつついた。

『…うん。バリトンサックスね。
これは、1mくらいあるよ』

膝に置いてあったハンカチで口を拭いながら言葉を返してくれた。
傍らで一定の電子音を刻む機械のスイッチを切って、首に掛けてあったストラップをそーっと外した。
君はそのストラップが当たってた首を何度も擦った。

『重そうだね?』

『うん。6キロあるからね』

『そんな重たいもの首に掛けて吹くの?』

『うん』

慣れちゃったよ、と言って君は気の抜けた顔で笑った。
その顔にはいつもみたいな警戒心が全くなくて、素で笑ってるって思ったら、ちょっと可愛いなって思っちゃったんだ。

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