風間と天霧が加わった所で、千姫は倒幕後の世情について一同に話して聞かせた。
少しでも学のある人間達は、しきりに文明開化を叫んでいるそうだ。

人の世は急速に変化をしているが、隠れ住む鬼達には一見あまり関係の無い事のように思える。
しかし、金物や反物等、自給自足で補い切れない物は下界から仕入れる他無い為、人間達の変化は少なからず鬼の間にも影響を及ぼすだろう、というのが全員の見解であった。

難しい話に一瞬全員の口が閉じて、静寂が場を制した。
その時。

『!』

遠くから聞こえて来た子の泣き声に、千姫は表情を変えて鋭く反応した。

『向こうで泣いてるのって、ナマエさんの赤ちゃん?』

『はい、そうです』

ナマエが申し訳なさそうに微笑んで答える。
風間は内心で、俺の子でもあるのだが、と思ったが、下手に噛み付かれても面倒なので黙っておいた。

うわあ、と感心し切った声を上げ、千姫はナマエの方へややにじり寄った。

『鬼の赤ちゃんを見るなんてどれくらいぶりかしら!
私、抱っこしてみたいんだけど…良い?』

『勿論です。
姫様に抱いて頂けたら、子達が大きくなった時に自慢となります』

ナマエはちらと天霧の顔を伺った。
ゆっくり出来る時間があるかを尋ねようとしたのだ。
すると意を汲んだ天霧は先に口を開いた。

『宴の席が整うまでまだ暫く掛かります。
用意が出来次第使いを寄越しますから、それまで寛いでいると良いでしょう』

有り難うございます、とナマエが返すと、風間が徐に立ち上がった。

『…ならば俺もそれまで自室に居る。こちらにも使いを寄越せ』

視線をナマエに向け、今日中に始末を付けておきたい仕事がある、と説明をする風間に千姫は驚愕した。
千姫の知る風間は、必要な事だけを端的に述べ、そうする理由までを丁寧に話す人物ではなかったからだ。

ナマエに変に気を揉ませない為であるからという事は容易に想像出来るが、あの風間にこのような事をしようと思わせるナマエの存在を、千姫は改めて奇跡だと思った。

『参りましょうか』

ナマエの声に千姫はふと我に返った。
風間は既に去った後で、天霧も腰を上げていた。
明るい返事を一つして、跳ねる様に千姫も立ち上がった。

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