十五

『気を失う前に、千景様の声が聞こえた気がしました。
…あれからどうなったのか、お聞かせ下さいますか?』

ああ、と言って、風間は立て膝に腕を乗せ、伏せ目がちに先の出来事を思い返した。

『…お前が飛び出してすぐ天霧と共に後を追ったが、思いの外距離が開いてな、追いつくのに手間取った。
漸く追いついた時が、南雲が動かぬお前を捉えんとする時だった』

ナマエは風間から目を離さず、黙して続きの言葉を待った。
風間は一度ちらりとこちらを見るとまた目を伏せた。

『触れるな、と制した後で一太刀浴びせてやろうとしたが、綱道の背後から紛い物どもが蛆虫の如く沸いて出て、南雲を庇う様に俺の前に垣を作った。
数の多い奴等を相手にする内…綱道と南雲は姿を眩ませた』

風間に殺される事無く逃げ果せた事を知り、ナマエは少しだけ胸を撫で下ろした。
あの時感じたたくさんの気配は羅刹だったのだと、ナマエは合点がいった。

綱道は常日頃よりそんなものを引き連れているのだろうか。
嫌悪と恐ろしさから、全身を鳥肌が走る。

『紛い物どもを全て屠った後、天霧を探索に出した。
俺はお前を連れて屋敷に戻り、今に至る、といった所だ』

『そうでしたか…』

風間は出来事のみを話すため、余計な点が一切無く、非常に解りやすい。
ナマエは咀嚼をして飲み込む様に、今聞いた話を己の中に入れた。

『…お話ししたい事があります』

次はナマエが得た情報を伝える番だ。
綱道と薫が企てている事を、風間と天霧も知っておくべきだと考えた。

『天霧さんはまだ戻っていませんか?』

『ああ。あれから半日と少しになるが、何の連絡も無いな』

何処まで探しに行ってしまったのだろう。
天霧にも話をしたかったのだが、いないのでは仕方が無い。
ナマエは鈍く痛む腹を抑えて身体を起こした。

『!?』

身体を起こして初めて、自分が肌襦袢しか纏っていない事に気がついた。
ナマエはびっくりして両手で素早く自分の身体を抱いた。
その様子を見た風間が一言。

『どうした?
着物は俺が脱がせたが』

頬を真っ赤に染め上げて風間を見た。
彼が自分の帯を解き、襟の合わせを開いている姿を想像してしまい、ナマエは物凄く恥ずかしくなった。
風間は面白いものを見るかの様に口元に弧を浮かべる。

『何に恥じらう?
寝間着も襦袢も、さして変わらぬであろうに』

『…変わります…』

俯きながら布団を手繰り寄せ、胸の辺りまで持って来る。
両膝を立ててそこに顔を埋めたナマエを見て、風間は声を上げて笑い出した。

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