「クザン。わたしエニエスに行ってくる」
「誰に似たんだかおまえも勝手だねぇ。ま、気を付けて行ってきなさいよ」

サイファーポール。
9ナンバーを与えられた彼らには、一般市民への殺しが許可されているだなんて衝撃の事実だった。
最初はただの興味本意だったけれどやっぱりおかしい。罪のない人への殺しが許される正義も、13歳の天職が闇の正義というのも、老いぼれ共は人の未来をどれだけ馬鹿にしているんだ。
そうして初めて会ったのは彼が13、私が15のときだった。

「あなたは何のために戦うの?」
「正義の為・・・と答えれば宜しいでしょうか」
「そうじゃなくて、本心を知りたいの。あなた本当に殺しが好き?」
「申し訳ありません。任務が入っているのでまた今度」
「・・・。あ、2つしか歳変わらないんだから今度から敬語はナシね!」




何かあってもなくても、暇と隙さえあれば本部を抜け出してエニエス・ロビーへしょっちゅう遊びに行っていた。
この頃になると真剣な話からくだらない話までちゃんと聞いてくれて、笑顔という笑顔は皮肉なものが大半を占めていたけれど、ごく稀に見せる柔らかいものがとても優しくて私はそれが大好きだった。
歳は彼16、私が18のとき。


「1ヶ月の任務に行ってたんだって?今までで最長じゃん」
「ああ」
「楽しかったでしょ?」
「鬱陶しい誰かの顔を見なくて済んだからな。それなりに」
「長官可哀想・・・!でももっと長い任務があればいいよね。外にはまだまだルッチが知らない楽しいこと、たくさんあるんだから」
「また始まった。おれだって外の事は充分知っている」
「読んだり聞いたりするのと、実際に体験するのは全然違うよ。そういえばこの前休暇でウォーターセブンに初めて行ったの。そしたらほら、ガレーラカンパニー知ってるでしょ?」
「世界一の造船会社」
「そうそう、そこの職人に変な奴がいてさー。歳は私達とあんまり変わらないくらいなのにそいつ、私の足見て“ハレンチ女!!ここは男の職場だぞ!!”って真っ赤になりながら叫ぶの!普通にスカート履いてただけで、しかも造船所の前を通り掛かっただけなのに!笑っちゃうでしょ?」
「随分年寄り臭い・・・。間違いなく童貞だな」
「でしょ!?もーびっくりしたよ!そんな奴がこの世界にいるなんてルッチは知らなかったでしょ?だから色々体験したほうがいいんだって」
「・・・無理矢理過ぎるだろ」
「・・・」




互いに力と経験を得て、昔のように頻繁に会うことは難しくなってしまったけれど。私は月に一度あるかないかの休日には必ず彼の元を訪れていた。
まったく恋愛感情がなかったと言えば、嘘になるかもしれない。でも私達は特別な何かを望んではいなかったし、目には見えなくても恋愛なんてものを越える深い絆があったのは確実だから不満なんてなかった。
ずっとこんな関係で歳をとっていけたらいい。そう思ったのは彼19、私が21のとき。


「見てルッチ」
「・・・悪魔の実か」
「本部で厳重に管理されてたやつなんだけど、隙ついて食べちゃった。すごいでしょ?一生カナヅチ、ルッチと同じだよ」
「それ程の実・・・バレたら降格だな」
「ううん大丈夫だった。半日以上お説教くらったけどねー!はは!」
「バカヤロウ」




いつか話したウォーターセブンで長期任務に就くということで、見送りに行った。長くて5年も会えないのかと思ったら寂しい気がしたけれど、5年もあの島を抜けて普通の生活を送れるのかと思ったら少し嬉しくなった。
彼23、私はもう25だった。

「童貞職人、覚えてる?」
「ああ」
「まだいるかな?会ったら宜しく言っておいて」
「まだ童貞なのかって本人に聞いてやろうか」
「あはは、とにかく頑張ってね。今まで知らなかったことを体験してたくさん世界を見るといいよ。昔から言ってるでしょ?まだまだルッチが知らないことだらけだって」
「おまえの口癖だ」
「そうそう。きっと楽しいことたくさんあるよ!」




やっぱりルッチの天職は闇の正義なんかじゃない。あなたの未来を馬鹿にした老いぼれ共を、見返してやればいい。
逃れようのない境遇に立たされ、自分を保って生きていく為には理由が必要だったんでしょう?私が思うよりずっと、小さな頃から我慢に我慢を重ねて数えきれないくらい沢山のものを犠牲にしてきたんだろう。
地位、名誉、強さを得た代わりに失った自由。代償は大きすぎた。
薄汚れたつまらない世界ばかりを見るしかなかったあなたに、少しでもいいから楽しい世界を見て欲しくて。私は昔からそう願っていたんだ。


「クザン聞いた?“麦わら一味に破れたCP9、逃走”」
「アララ・・・まだ見つからないのね」
「捜したって無駄だよ」
「随分嬉しそうな顔しちゃって」
「私?」
「他に誰がいるのよ」
「ふふ。だって、ねえ?」


新しい世界へ足を踏み出したあなたに尋ねたいことがある。答えをもらうどころか、尋ねることさえ生涯出来ない立場になってしまったけれど。
でもきっと大丈夫。大きなものを背負って生き抜いてきたあなたは、間違いなくそれに勝るものを両手一杯に掴めると信じている。あのように決して重くない、身も心も軽やかになる何かを。

そう思ったのは彼28、私が歳のことは口にしたくない歳になったときだった。


その世界は美しいですか
優しいですか
嘆きを癒してくれますか


Thanks/少年エミール
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