「あのさ、ルッチ」
ここから先が言えなくて沈黙がかれこれもう数十分は流れている。
もう今日はやめておこう、いやいや今日言わないでいつ言うの、脳内でエンドレス状態。そんな私を気にも留めずルッチは、時々グラスを傾けるだけで視線はずっと手元の本に集中している。やっと口を開いたと思ったらこれだし。


「あのさ、ルッチ」
この先をこいつは戸惑い、沈黙がかれこれもう数十分は流れている。
言うなら早く言え、それともこのおれに言えとでもいうのか。目には映すものの頭に入らない文字を追いながら、時折グラスを傾ける。自然と言葉が出たかと思えばなんだ、これは。


「用が無いなら出ていけ」
「な、」
「目障りだ」


私は馬鹿だ。
どうしてこんな奴を好きになってしまったんだろう。でもルッチも馬鹿よ。この空気を読めないほど鈍くない、私が何を言いたいか分かっているはず。それなのに暴言を吐くだなんて、信じられない。もっと優しくて思いやりのある人はたくさんいるのに、どうして私は。


おれは馬鹿だ。
やっと出た台詞はこいつが望むような甘いものとは真逆で、傷付けてしまった。だがおまえも馬鹿だ。どうして何も言い返してこないのか、どうしてこんな男を想うのか、もっと自分を幸せにしてくれる奴はたくさんいるだろう。少なくとも、おれよりおまえを傷付ける男はいない筈だ。


「皮肉な話よね」
「ああ、皮肉だな」
「馬鹿にしてる?」
「何が言いたい」
「もういいよ」


Imperfect

人を貫くときに躊躇はないのに、愛を囁く時にはひどく戸惑う。
私達はなんて不完全な人間だろう。


Thanks!不在証明
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