おれに中指を立てやがったその行為を嘲笑った直後、会場に足を踏み入れあたりを見まわす女が視界にうつった。
億越えには一歩及ばないものの、顔は同業者のあいだでなら知れ渡っている、トラファルガーの野郎んとこの女クルー。あの制服らしき揃いの服は着てねェが間違いない。
「オイ、おまえら見てみろ。ありゃどう見てもアイツの女だな」
「違いない」
新聞にそう書かれていたわけじゃねェが態度のデカさ、放つオーラがただのクルーではないとまわりの人間に察知させていた。
好奇の目で眺めていると、なにかを感じたのかこちらを振り向いた女。船長が船長なら、その女もまた然り。
おれたちと視線を交えながら、親指を会場の床に向けやがった。
女のくせになんつー下品な仕草だと普通だったら思っただろう。だがその挑発的に上げた口角、下げた指先、頭の先から足の先まで、どこか気品さだとか優雅さといった類いの雰囲気を纏っている様はおれに、これがこの世で一番男心を掴む女の仕草なんじゃねェかと勘違いさせるほどだった。
女はおれたちから顔を背けると、落ちついた足取りで席に向かって階段を降りていく。アイツの元へ辿りつくと耳元に唇を寄せて、なにかを囁いたようだ。
ちらり、女がまたこっちを見やる。それを宥めるように真正面を向いたままの刺青だらけの腕が、女の身体に絡められた。
「トラファルガー・ロー、てめぇは何から何まで上等だな。
…………新世界で叩き潰す」
Kick your ass!
なあキラー。
あのとき一瞬だけ、会場内の喧騒も人の動きも流れる時間も、なにもかもが止まったと錯覚した。
あの女は別に能力者じゃねェよな?そう言ったらおまえは笑うだろうか。
……笑うだろうなァ。 |