生まれながらに他人の心理を読める能力を持った私は、幼い頃に幾度も失敗を重ねてきた。化け物扱いされ、近寄るなと罵られ、それはもう心臓を引き裂かれるような想い。歳を重ねてコントロールを覚えてからは、一度足りともその能力を駆使したことはないし、誰に打ち明けることもなく今日まで過ごしてきた。それが今、彼を読んでみたらどんなことが分かるか、なんて興味を抱いてしまった私は実に馬鹿げている。


「お疲れ、ルッチ」

肩に鳩を乗せ、自ら会話をすることがない彼は何を考えているのか全く分からない。少しでもその心に私はいるのかな。結果がどうあれそれを知りたかった。鳩を通し“お疲れ”と返す彼の腕に触れ、指先に少しだけ意識を集中させると簡単に読めた心。そこには確実に私がいて、もう飛び上がって喜びたい気分。こうなったらこの気持ちを伝える外ないと勢いに任せたまま彼の名を呼び、好きよ。ずっと好きだった。そう笑って告げた。すると彼は一瞬だけ目を伏せて深い呼吸を。


「・・・後悔はしないか?」

出会って四年目にして初めて聞いた地声は低くもなく高くもなく、すんなりと私の脳に届いてあらゆる神経を侵した。当然彼の言葉の意味を深く考えず、するわけないよと答えると激しく重なってくる唇。


「いいか、例えおれの全てが偽りだったとしても」
「お前へのこの気持ちにだけは」
「偽りは何ひとつ無い」

キスの合間に途切れながら話す彼に、こちらも途切れながらの相槌を打つ。ずっと想い描いていたシチュエーションに完全に舞い上がってしまった私は、もっと彼の中の自分を感じたくて能力を使ってしまう。幼い頃に経験した、世の中には知らないほうが幸せなこともあるということをすっかり忘れていた。


「ルッチ?」

違う意味で速度が増す心。
ピンクに染まった景色は一転してグレイに変わった。


「どうした」

太股に触れていた手を止め、顔を覗き込む彼は侵入者。詳しくは分からない。読めない、ううん、それ以上読みたくなかった。


「・・・何でもない。好きよルッチ」

本当に馬鹿げている。欲張って墓穴を掘ってしまった自分も、それすらもどうでもいいと思えるほど彼に溺れている自分も。


Vera
(真実)


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