人生には無限の可能性があって、道は幾つにも広がっている。
ルッチの部屋で偶然手に取った本にそんなことが書かれていた。有り得ないよ、見下したよう笑って呟く。


「ルッチはどう思う?」
「興味が無いな」
「いや絶対有り得ないでしょ」

私達の前に広がる道は昔からたったの二本しか用意されていなかった。勝つか負けるか、殺るか殺られるか、生きるか死ぬか、いつだってそれの片方だけを選んでここまで生き抜いてきたんだ。
伴って、死は常に身近に感じてきた。
人が死ぬ。時には仲間の手がそれを招き、時には自分の手でそれを招いた。まるで眠ることのように生活の一部となっている、命のやりとり。何度も何度も繰り返している所為かもう誰一人の顔すら憶えていない、それどころか何故殺さなければいけなかったのか、という理由すら憶えていない。この先何処の誰が消えても、私達にとって死はその程度のものでしかない。


「でもルッチが死んだら、こんな私も少しは悲しくなるかもしれない」
「じゃあおれも、おまえが死んだら悲しくなるかもしれないな」

そう言って小さく笑い合ったけど、気持ちに嘘はなかった。でも実際にその状況になってみたら、まったく違ったんだ。きっとルッチは私が死んだって悲しくなんかならない。だって今の私、目の前で瞼を閉じているルッチを見ても何とも思わないんだもの。
悲しくもない。涙も出ない。
きっと小さな頃から身近にありふれていたから、自分が思っていたよりずっと、それに鈍くなりすぎていた。

次は無限に広がる可能性がある人生を見つけられたらいいね。返事をしない亡骸にそれだけを呟いて、最期の別れを済ませた。
ルッチの死は今までの任務で見てきた死と同じように、私の中で消化されていく。


Peace out

ひとつだけ違うのは、私はあなたを生涯忘れないということ。
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