自分はここまで浅はかな女だったのかと驚くべきか、もしくはここまで惚れ込んでいたのかと驚くべきか。

上陸した島で久し振りに1人ゆっくり飲んでいたら「お嬢さん、お隣空いてますか?」と紳士な声が降ってきた。顔を上げると、襟元を正して高貴なマネをしたシャンクスが。
なんでここに来てまで一緒に飲まなきゃいけないんだ、と偶然の出来事を嘆きあって笑いながらグラスをぶつけること数時間、お互い酔いが回ってきた頃に、近くに宿とってるからおまえも来いよとまるで誰かを宴に誘うときのような軽い調子で、シャンクスが言うものだから。

アルコールが体内をめぐった男と女がベッドしかないような狭い部屋に入れば、そこで行われることなんて大抵決まっている。
シャンクスは私に手を出した。
私もそれを受け入れた。
だけど、こんな流れは何も特別なことでもない。シャンクスとは初めてだけれど今までの人生には何回かあったし、似たような体験談を人から聞いたことだってある。小説でもドラマでもよく起きること。
シャンクスだって同じはず。
だから私は、これを機に責任を取ってもらうような気持ちはないし、何かを期待することもない。子供じゃない私とシャンクスの間ではこんなこと、深い意味なんてなかった。
それはいくら私がシャンクスに、密かな好意を抱いていようとも。


小さな窓から差しこむ光。
それに誘われるようベッドから這い出て、昨夜脱ぎ散らかした下着を再び身に着ける。背後から掠れた声がしたのはあくびをしようと大口を開けたときだった。


「ふあ・・・先、船戻るよ私」
「・・・もうそんな時間か?」
「ううん。まだ太陽出たばっかりだけど」
「なんだ、じゃあ別に慌てなくてもいいだろ?ゆっくりしてこーぜ」


目を瞑ると出来上がる三本のライン。その形を崩さないままシャンクスは豪快に布団を捲った。


「なにしてんだ?早く来い」

シャンクスに誘われてこの部屋へ来て、朝日に誘われてベッドから出て、またシャンクスに誘われて戻る、か。誘惑に弱い女だ。心のなかで自分をあざ笑う。
もう眠るつもりはないから手持ちぶさたにならないよう煙草に火を点けて、仕方なく言われた通りまた入り込むと腰に腕が絡まってきた。


「おれにもくれよ」
「煙草?向こうに置いてきちゃった。待ってて、取ってくる」

ぎゅうっと片腕を締めながらシャンクスは笑う。


「お前のそれでいい、」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「なに口開けて待ってんの」

無言の要望をまた仕方なく受け入れ、くわえさせてみる。勝ち誇ったような満足げな顔をするシャンクスは、我が儘が許された生意気な子供みたい。
こんなふうに恋人同士みたいなやり取りは必要ないのに、この人ってばどこまでも優しいから。


「なー」
「ん?」
「おれ、おまえが好き」
「ありがと。でもそんなに気遣わないでよ」
「な・・・ちょっと待て。おまえもしかして、おれが勢いで抱いたとでも思ってんのか?」


曖昧に笑って誤魔化せれば良かったけど通用しない。その証拠にシャンクスは、一瞬で私を見極めて言葉を続ける。


「酒の力は借りたけどよ、勢いなんかじゃねェんだ」
「だから・・・ああ、やだなもう」
「よし、んじゃ二度と抱かねェ」
「うん、そうして。本当私は大丈夫だから、ありがとう」
「その代わり明日も明後日も毎日、おまえが信じるまでしつこく好きだって言ってやる」

いたずらに笑った姿に目眩がした。
たった今信じたから必要ないよ、と言いたいところだけど明日も明後日も毎日好きだと聞いていたい気もするからもう少し、曖昧な笑顔を見せていようかな。


曖昧な色を塗りたくりビビットな世界の隅っこを這うのさ

thanks/ミザントロォプ

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