今日は久々の上陸だった。
大量の購入品を収納すべく夜な夜な部屋の片付けをしていると、ローから借りっぱなしになっていた本が数冊。どうせ街に繰り出して不在だろう、適当に本棚に戻して後日その旨を伝えればいい。
そう考えながら自室を出て、ノックを数回鳴らして開けた扉。

「どうした」
「あ、ごめん。いないと思って。これ返しに来たの」

不在だと思っていた本と部屋の主は、ソファに座り酒瓶を傾けつつ読書をしていた。その向かい側にはシャチが瞼を閉じて寝転がっていて、傍らのベッドにはベポが変な体勢で転がっていた。顔は見えないけれど、シャチと同じく寝ているようだ。

この状況こそどうしたの、と苦笑しながら本棚の前まで歩き、収める場所を探す。


「酒場から帰って飲み直してたら、潰れちまった」

同じように苦笑した声が、背中の向こうから聞こえてきた。


「そんなに飲んだの?」
「いや、そうでもねェよ」
「ローのそうでもない、は結構飲んでるからね」

場所探しに手こずっている私は、背中で会話をする。
こうもたくさんの書物が並んだ本棚、ジャンル毎に別れているとはいえ元の場所を見つけ出すのは大変だ。何せ借りた時はローが選んで取り出してくれたのだから、私にはおおよその場所すら分からない。



「・・・・・によく似てる」
「んー?」
「此処は、おれが生まれた国によく似てる」

並んだタイトルを見つつ、頭の片隅で僅かな情報を引っ張り出した。


「・・・確か、医療が盛んな国だっけ?この国も医療が発達してるみたいね」
「ああ。ガキの頃を思い出すな」
「ローの子供の頃?あ、あった。ここだ」

手ぶらになれた私は、ようやく振り返ることができた。
ローを見ると酒瓶の蓋を開けていて、軽い音を立てながらそれをテーブルに置く。片手には、まだ開けたてであろう瓶を持っているので置かれた瓶は恐らく私の分。
つまり、飲んでいけという合図だ。

向かいのシャチを眺めながらローの隣に座り、酒瓶を一口分傾けた。


「フレバンス。おれが生まれた国だ」
「フレバンス・・・」

聞いたことのある国名に思考を巡らせる。なにかで聞いたか、読んだか、とにかくその名に覚えがあった。


「白い町」
「・・・!思い出した・・・」

ヒントのように出た単語は、意図も容易く答えに導いてくれた。
それと同時に速まる鼓動。
フレバンス、白い町。死を招く珀鉛病が原因で、滅亡した国。
その国で生まれた子供が、こうして大人になり海賊をしている。重い過去を持っていると確信するには充分だ。
海賊船にいる奴なんて、暗い事情や過去を持つ人間がほとんどで。ローにだってそれなりの事情があるのは言われずとも分かっていたけれど、それは想像を遥かに超えていた。

淡々と、抑揚のない声でその口から語られた過去。

家族との日々
生き延びた理由
あの海賊との出会い
恩人のこと

衝撃的な展開の数々に、返事は疎か相槌すら打てずに硬直してしまう私。
長い沈黙を破ったのはローだった。



「今思うと・・・4人で暮らした時間は嘘みてェに幸せだったな」

このおれが、似合わねェだろ?

哀しい笑顔。
咄嗟に片腕をその首元に回し、引き寄せる。
言葉はあまりにも役立たずだから、今はただ、この尊い存在を抱きしめて温もりを伝えなければ。




「酔ってるな・・・喋りすぎた」

肩にもたれたまま、独り言のように呟いたローは、縋るように顔を埋める。
私はベポとシャチを見つめ、消えてしまいそうな体を抱えながらまだ見ぬ未来を想った。



傷付いたあなたを抱きしめたことを、いつか幸せに笑うあなたに思い出して欲しい


thanks/everlasting blue
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