人間の皮膚を抉って、そこに墨を入れ芸術を施すのが私の仕事。仕事といっても報酬はなくただの役割という、この船専属の彫り師とでも呼ぼうか。
簡単には消せない永続的なものでそれが人目に曝されるのなら、リスクを伴おうとも絶対的に美しさを選ぶ。そうして私の譲れないこだわりを追及した結果、痛みの強い手彫りを用いてる。


「相変わらず痛ェな」
「やだ、痛いのは愛情表現だよ」
「じゃ表現しなくて結構」
「うるさい気が散る」

サージカルグローブ越しに触れるローの手は女みたいに綺麗で、無骨なんて言葉とは程遠い。だけど、頼りない雰囲気はこれっぽっちだってない不思議な手。


「なあ」
「ん」
「お前は何を想いながら麻酔もしない人間の身体を抉ってるんだ?」
「猟奇的な言い方しないでよ」


悪い悪い、そういうつもりじゃねェよと返ってくる声。
血が滲む皮膚を眺めながら、その問いをもう一度頭の中で反復した。
大抵の人間は何か強い想いがあって刻む。その想いを形として残すことが出来るのが私で、生涯誇ってくれるならそれはこれ以上ない喜び。
だけど逆も有り得る。もし嫌な傷に変わってしまうことがあれば。それを考えると、複雑なのが正直なところ。
一生消せない、褪せない傷。
刻まれたそれに誰一人として、絶対に生涯後悔しないなんて言えない。
そして後悔するのは自身が感じることであって、誰にも止めることは出来ない。
それなら私が想うのは。


「その人の想いとか決意を歪ませて、刻み込んだものを後悔してしまう程の何かが起こらないように。そう願いながら彫ってるよ」
「・・・・・・」

ノーリアクションに不安を感じて顔を上げると、ローは優しい表情で私を見下ろしながらぽつり、妬けるなと呟いたから思わず笑みが零れる。


「毎回そんなこと考えてたのか」
「そうだね、だから痛いのかもしれないね。あはは」
「腕の良い彫り師をもう1人仲間に入れるか」
「ちょ、え?なんでそうなる・・・!」
「そいつはクルー達専属でな」
「はいはい私は解雇ですか」
「クルー達専属だったらおれはどうするんだよ」
「まさか私、」
「喜べ。キャプテン専属だ」

斜めになった唇と、いつにも増して傲慢な態度に呆れ果てる。


「1回の施術に10万ベリー出すならあんた専属も考えてあげる。さ、今日はここまで。かさぶたになって痒くなるけど絶対掻かないでね」


それにしても不思議よね。こうして私達の重なる手には同じ形の傷が刻まれていて。
プラス、毎日同じものを食べて毎日同じものを見て、知って、同じように過ごして。これからもずっと「同じ」が続くようにと願ってしまう。
何も知らない子供みたいなことを考えてしまうのはローが、この船の皆が大切な存在だからなんだよ。

こういう肝心なことを上手く伝えられない自分が少し嫌になるけれど、代わりに強い願いを針に込めるから。
だからあまり皆して、痛い痛い文句ばっかり言わないでよね。


the cat's whiskers

Thanks/ace

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