Baby,please be beside me.

ちょっと来てみろよ。その言葉に疑問を持ちながら彼に続いて船を降りた。言動の意図が全く分からない。買い忘れたものがあったのか、または昼間行った店の料理が忘れられないのか。
なにどうしたの?数回足を動かしたところで聞いてみると前を歩いていたローの足は停止し、上半身を僅かに捻って振り返る。


「え、なに。なんなの?」
「ほら」


短く言葉を吐き、手のひらを見せて腕を突き出してくる。そこには何も見当たらないし私が差し出すものも何ひとつ無い。まさか、この手を寄越せとでも言うのか。
さらに理解不能に陥って固まる私に、小さく息を溢し歩み寄ってくるローはそのまさか。だらしなく下げてあるこの手を取り、また歩き出した。

手を繋いだのなんて故郷にいる頃以来。こうも長く一緒にいると手を繋ぐよりは腕を組むことのほうがほとんどで、さらに腕を組むことだって小洒落た店なんかに入るときの人前用だ。
久し振りの感覚は急に気恥ずかしさを連れてきた挙げ句、言葉を詰まらせた。


「・・・どこ行くの」
「散歩?」
「ぶっ、似合わない」
「うるせェ」


いつもの調子なんてすぐに戻る。手を絡ませたまま海岸沿いをのんびり歩いて、あっちに何が見えるだとかこの花見たことないとか、今日の夕食はなんだろうとか、愛を語らうなんてロマンチックな雰囲気には程遠いけれど、飾らない空気がとても心地良かった。
上陸しては何かとトラブルが起き、血の気の多い輩と戦闘が始まったり正義を背負った奴らに追われることも少なくない。慌ただしく過ぎていく日々は私に、私達に、当たり前のことを忘れさせた。海と空はこんなにも青く広かったのか。潮風はこんなにも落ち着くものだったのか。
そしてローの手はこんなにも大きく、温かいのか。包まれている面積は身体のほんの一部なのに抱き締められているような感覚は、過ごした年月のせいかそれともローが元々持ち合わせてる特技か。もしくは私達の何かがぴったりなのか、なんて思ったりしてもいいでしょう?


「聞くけど」
「なんだ」
「いま幸せ?」

私の左手に、ローの右手から少しの躊躇いもなく力が伝わってくる。「幸せだ」そう笑うローとずっとこうして一緒にいたい。慌ただしくてもいいからこれからも、ただ傍に。ずっと一緒に。

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