上陸した島で1人買い物を楽しんでいた私は、久し振りの穏やかな時間に夢中になってしまい港の方角が分からなくなるという人生初の迷子を経験した。とりあえず、休憩も兼ねて近くにあったカフェにてひと休み。
店員に道を尋ねようと思ったはいいものの、辺りを見回しても姿が見当たらない。客も少ないしきっと奥でのんびりしているんだろうな、と思ったらわざわざ呼び出すのも気が引けた。
別にお会計のときにでも聞けば良かったのだろうけど、初の迷子・見知らぬ土地・沈んできた陽、これらの条件が重なっていたから早く安心したかったのかもしれない。
斜め後ろの席に座っていた男性に道を尋ねた、これが事の発端。
とっても紳士的なその方はわざわざ私の席まで来て丁寧に道を教えてくれ、そのまま他愛もない会話をしていたらなんとも偶然、我らがキャプテンご一行様が目の前の道を通り掛かったのだ。私は特に声を掛けず、隣の彼と会話をしながら皆が通り過ぎていく様子を見ていた。すると視線を感じたのか、ローがくるりと横を向いて私に気付く。ひらひら、と手を振ってみせるとローは鋭い視線を寄越した。


「別に道聞いてただけじゃん」
「何故すぐに店を出てこなかった?」

船に戻ると、まさかの尋問が始まった。たかが道を聞いていたくらいで大騒ぎするなんて、馬鹿らしい。


「その態度が気に入らない」
「態度?意味が分からないから、話にならない」

それともなに、抱きついて上目遣いでごめんなさいとでも言えばいいの?死んでもごめんよ。
ごめんねと一言謝って機嫌を取っておくのが大人の対応かもしれないけれど、そんなのまだ無理。


「次こんな真似してみろ」
「なに」
「殺してやってもいい」

余裕を浮かべた笑みで、出来もしないことを言うロー。態度と台詞からしてもう怒りは消えかけているみたいだけれど、それに反比例するかのように、今度は私の怒りがじわじわと沸き上がってくる。


「ふうん。どうやって殺すの」
あくまでも怒りは見せず、冷静に、その冗談に付き合う。

「そうだな。銃で心臓をひと撃ち。棺には真っ赤な薔薇を敷き詰めて、この世で一番綺麗な海に投げ捨てる。どうだ?最高だろ」
こいつの機嫌は完全に直ったのか、もういつもの王様気取りで唇を奪う。


「そんなことされる前に、私がローを殺してやるわよ」

帽子とお揃いの柄が入った、お気に入りであろうジーンズを華奢なピンヒールで蹴りつけ、目の前の身体を押し退ける。そのまま自室に戻って鍵をかけて、ベッドにダイブ。大人になりきれないところも出来もしないことを言うのも結局ローと同じだ。
そんな自分にまた腹を立てながら、いつのまにか寝てしまったらしく朝を迎えた。
素直に謝れるかは分からないけれど、部屋に行って様子を見てみよう。あれからローは私を訪ねてきただろうか、最後の態度でまた怒ってしまっただろうか、それにしてもあの蹴りはなかなか良いところにヒットしたな、きっと地味に痛かっただろうなと可笑しさが込み上げる。
・・・・・・ごめん。

自室の扉を引くと、廊下に置かれたいたもの。
一瞬唖然とし、なんとも言えないジョークに可笑しさと嬉しさを含めた笑いを溢して、それを手に取り彼の部屋へと向かう。


この薔薇の花束は愛情か。
否、警告か


(これ敷き詰めるの?勿体ないよ)
(そうだな。生かしてやってもいいか)
(あはは、ありがとう。ところで私の蹴りはどうだった?)
(・・・・・・地味に痛かった)
(やっぱり。そうだろうと思ってさっき笑ってたの)
(てめェ・・・)


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