「死んでもお断り!」
「勘違いするな。おれは海賊、おまえがそう言うなら、」
「「奪うまでだ」」

綺麗にハモッた。
これって海賊お決まりの台詞よね、言うと彼は苦笑いで視線を逸らす。見ない顔だなと思って声を掛けたのが3日前。海賊は基本しつこいから敬遠していたのだけれど、余りにも魅力的な容姿だったし、女に執着するようなタイプには見えなかったからログが溜まればあっさり別れられると思ったのに。その別れがきた途端「おれと来い」が始まった。


「この街が好きなの」
「おれの船のほうが気に入る」
「海って苦手なの」
「得意にしてやる」
「クマも苦手なの」
「もっとマシな嘘をつくんだったな」
「バレた?」
「3日前、あいつを見た瞬間の目が輝いてた」
「あははっ」


あわよくばこの和やかな雰囲気で誤魔化せたら・・・なんて思ったけど、やっぱり失敗。下着を付けようとする私を包み込む腕が「そう誤魔化されない」と語っている。そうくるなら、とこちらも柔らかく振り解く仕草に「絶対に行かないわ」と念を込め、お互い意味深にほほ笑みながら、見つめ合う。


「甘い誘い文句が欲しいか?」
「いらない。その文句が本音だろうと建前だろうと、そういうのは信じないことにしてるから」

実のところ、彼とだったら海に出てもいいかなと思えた。出会って数日しか経っていないし、特別お互いのことを長々と語り合ったわけでもないのに、そう思えるほどの特別な何かを確信した。でも臆病な私はまだ創ってもいないのに壊れた時のことばかりを考えてしまうから。だから、お手軽な擬似恋愛を楽しんできた。どうしようもない私が今更、簡単に変われるわけがない。


「気持ちは嬉しいけど本当に一緒には行けない」
「頼むよ。おれと来てくれ」


押しても駄目なら引いてみる作戦?
この伸びてきた手はきっと今までの男のように私を包み込んで、最後の思い出として結局また服を脱がせるはず。どいつもこいつも同じ。別にそれでいいけれど。心の中で溜め息を吐きながら、彼の手を視線で追うと下のほうに向かっていく。ああ面倒なことは省いてそうくるか、なんてまた内心盛大な溜め息を吐こうとした時その手は私の手を包み込んで、それはもう信じられないくらい優艶に口づけたんだ。
この臆病を奪い取ってくれた、そんな風に感じた私の気持ちの変化に彼は気付いたのか。


「気が変わったか?」
「・・・変わるかもしれない」
「それは良い傾向だ。来い」


熱帯夜に溶け込んで
愛とやらを、もっと教えて


Thanks!mutti
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