夜の見張りは相当キツい。眠いし退屈だし、何より私の肌は性格と違ってかなりナイーブなもんだから、ちょっと夜更かしするとすぐに調子が狂ってしまう。それらを理由に我が儘を言ってきた結果、数ヶ月に1回という贅沢なペースで今まで免れてきたのだけれど、その数ヶ月に1回のペースが今日やってきてしまったのだ。
はっきり言って今かなり退屈。
本を読むとしても私の場合熱中してしまい、敵船に気付かなくなるので好ましくない。それよりも熱中する前にうっかり寝てしまう可能性のほうが高いんじゃないだろうか。さてどうしたものかと考えたとき、展望室の扉が静かに音を立てた。
予想通り、のっそりと登場したのはいつも以上にラフな格好をしたこの船のキャプテン。


「眠れないの?」
「ああ」

ローが眠れないのは目元を見て分かる通り、珍しいことじゃない。身体は疲れているのに眠れないなんて結構辛いはず。けれどローは一切の弱音を吐かず、それどころかお前と一緒だと良く眠れる、と心配する私を気遣ってくれる。確かに眠ってはいるけど深い眠りでないことは明らかなのに。だからなるべく心配する素振りは、見せないようにしていた。


「じゃ代わってよ」
「甘えるな」
「彼女なんだから甘やかしてよ」
「充分甘やかしてるだろ。それにこういう時だけ彼女だなんて、調子良い奴だな」
「事実じゃん」

返ってきたのは呆れ笑いのみ。
ローが隣に座った瞬間、入浴後特有の石鹸の香りがふわりと漂ってきた。


「我が儘言うなよ」
「だって真っ黒の海なんて見ても楽しくない。やっぱり昼間の海が1番」
「…へえ」
「もちろん晴れてる日ね。曇っててもダメ。太陽の光でキラキラした水面から少し視線を上げてさ、そうすると綺麗な水色の空!見えるのは海と空と太陽!もー大好き。でも朝早い時間の景色も結構好きかも。ねえ、ローはどんな海が好き?」


勢いよく隣を見ると、瞼を閉ざしたローの姿。
なんて失礼な奴。ついさっきは眠れないとか言ってた癖に、私がちょっと喋っている間に寝ちゃうだなんて。しかもここは普通、私に寄り掛かったりする場面じゃないの?なんて思ったけど物事はなんでも自分の思い通りにはいかない。(私が夜の見張りを免れることが出来ないようにね)

規則正しい呼吸音に安心感を抱いて、そっとブランケットをかける。この稀に拝見出来る穏やかな寝顔は、私にあらゆる感情を生ませる源であって仕舞にはどうしようもないくらい優しい気持ちになってしまうんだ。


「おやすみ」

髪を撫でて。額にキスをして。
窓の外を見ると真っ黒だったはずの世界には、色が溢れていた。ローを愛する私だけに見える、特別な色と世界。
見張りは嫌だけど夜の海も悪くないかもね。目が覚めたら、一番にそう言わなきゃ。


伝えきれない程の美しい想いを抱えられる幸せ


Thanks/Bye-Bye Blue
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