陸にあがるのはいつ以来だろう。
前回の停船では、はしゃぐクルー達とは逆に二日間ずっとローと部屋に閉じ籠ってのんびり過ごしていた。となると陸は一ヶ月振りくらいかな。そんなことを思いながら、住民に紛れて足を進める私の隣にローはいない。何かあったわけじゃないけれど、たまには一人の時間も必要だと感じた私は心配するベポとあっさり了承するローを横目にふらりと船を降りてきたのだ。

目に入ったオープンカフェのテラス席、右から二番目のテーブルにつくと小柄の可愛らしい店員が水とメニューを持ってくる。ありがとう、そう言ってどこにでもあるドリンクをストレートで頼んで賑わう街並みに顔を向けると、時間的に家路につく人または夕食の買い物をしているような人が多く目につく。
沈む陽によってオレンジ掛かった景色は、人の表情をさらに温かく柔らかく感じさせ、ふと故郷の島を思い出させた。
ここまで華やかな街ではなかったけれど、あそこには今眺めるこの場所以上に温かさと優しさが溢れていて、私はそれが大好きだった。向かいに住んでいたパン屋を営むあのおばさんは、今も元気だろうか。幼い日々を泥だらけになって共に過ごした友人達は、今どんな人生を歩んでいるのだろうか。
ローについて海に出ると言った日にパパとママが笑顔で、行ってきなさいと抱き締めてくれた感触は今もこの身体に鮮明に残っている。

どうしてだろう。

航海も楽しくて毎日笑っていて、辛いことなんて何も無いのに感傷的になってきた。
もしかしたら、どんなに仲良くしていたってクルー達は私を心の中でとんだお荷物だと思っているかもしれない。まあキャプテンの恋人だから仕方ないよな、そう思っているかもしれない。ローだってどんなに愛情表現をしてくれていても、所詮私をあのピアスや帽子や刺青のように男を飾る為のアクセサリーの1つとしてしか思っていないかもしれない。現に私には戦闘スキルがないのだから。
ただローの傍で同じものを目にして感じて、喜びや悲しみを分け合いたい、それだけの理由で船に乗った。
そんな私を、もしかしたら皆は。

不意に頭が包まれる感触、ローの帽子だ。
暗さと涙で歪んだ視界を凝らして斜め上を見上げると、当然これの持ち主がいて。店内の奥には身体を壁に隠したベポが、顔を半分だけ覗かせてこちらを見ている。


「不安か?寂しい思いをさせたか?」

見透かしてそう問い掛けるローから目を逸らし、首を横に振りながら乗せられた帽子を深く被った。本当は分かっている。クルー達もローも誰も、私のことをお荷物だなんて思っていない。そんな風に思う奴をローは船に乗せたりなんかしない、全部分かってる。それでもこの雰囲気にのまれて馬鹿なことを考えてしまったんだから、情けない。


「帰るぞ」

それすらも見透かしたのか、困ったように、それでも穏やかに笑むローを見てあの時パパとママが言ったもうひとつの言葉を思い出した。

出会いと別れを大切にして人を愛しなさい。愛を与えてくれる人達を信じなさい。あなたは、



愛されるために生まれてきた



Thanks/ステラ
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