手を握り締める仕草も身体を抱き寄せる仕草も、私に触れる行為すべてが縋っているように感じてしまうのは意識過剰だろうか。
もしかしたら孤独に生きてきたという彼の物語を勝手に妄想し、解釈しているからそう感じるだけなのかもしれない。
でも寄り添っているとき彼は「ずっと隣にいろ」と悲しそうに寂しそうによく口にする。
普通だったら未来を約束されたような、ちょっと嬉しくなってしまうような甘い台詞も私達には曖昧なものでしかなかった。
大きな意味を持つはずなのに、ここで交されるとなんの意味も持たない戯れ言。
本当に、そう。

そんな彼と初めて会ったのはもうずっと何年も前で、今やキスもセックスの回数も数えきれない。


「帰り、遅いんでしょ?」
「ああ。だからおれの部屋で待ってろ」
「分かった」

「こっちに来い」
「・・・ちょ、跡つけないでよ」
「構わないだろ」

「好きだ」
「うん」

「愛してる」
「うん」


身体のことは知り尽くしていても私達は、お互いの好きなものや嫌いなものを知らなかった。相手を理解しようとする深い会話や歩み寄りすらまともにしたことも、そういえば無い。

私は彼に「ずっと隣にいろ」と言われることはあっても「付き合おう」と言われたことはただの一度も無いのだから。

上辺だけの会話に何かを見出だし偽りに浸る姿はさぞ滑稽だろう。
けれど不満はなかった。
縛られることを大嫌いとする私達の間では本気の束縛なんて以ての他だったし、余計な詮索も干渉も決してしないことが当たり前だから彼の部屋には私のじゃない女物があることだってある。逆に私の身体には彼がつけたものじゃない跡もある。
あらゆる影に気付いたって隠そうとも責めようともせず、一切気にも留めないこのカジュアルな関係は何よりも楽しくて、退屈で、無意味。

でもね、私の妄想は強ち間違っていないかもしれない。
彼はきっと本当の愛を欲しがっている。それは多分誰からでもよくて、例えば私でも。
ただ与えてあげられない。
傍にいて、同じ時間を共有しているというのにどうしても彼を心から愛することは出来なかった。

それでも、寂しがり屋な彼の何かをほんの僅かにでも満たしてあげられるなら。こんな関係だって少しは意味を持っているのかもしれない。




愚か者たちの楽園は酷く優しく、静かな痛みをその胸に刻み付けた



Thanks/空想アリア
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