天気の優れない退屈な午後。ローテーブルの前に落ち着く私の両側には、真後ろにあるソファに座った彼の脚が堂々と、この身体を挟み込むように伸びている。特にやることも見当たらないからそれを肘掛けにしてぼんやり過ごす私。部屋はもちろん読書に夢中な誰かさんのおかげで無音。
時折思い出したように時計に視線を投げてはうんざりしてしまう。たった10分が1時間に感じるなんて暇で仕方ない証拠。


「私にも見せて」

別にその本に興味があるわけじゃなくて、ただ気を引きたかっただけ。それに気付いてくれたのかは分からないけど上半身を乗り出して、腕を肩越しにひとつ伸ばしてきたロー。だけどもうひとつの方はしっかり本を掴んでいる。
何もないよりは暇潰しになると思って、顔のすぐ横に置かれた手を取って眺める。沢山の墨が埋め込まれていても不思議と品がある美しい手元。こっちは必死でケアと努力を重ねてるのにという悔しさから、指を掴んで軽くつねってみたり刺青をなぞってみたりと無意味に遊んでいた。


「“DEATH”・・・怖っ」

さっきから出るのは私の呟きばかりだけど特に関係が冷えているわけではない。甘い言葉は貰えないけどローはきちんと愛情を注いでくれるし、私も実感出来ている。たまたま今は自分が好きなことに集中しているだけ。
まあ、ただ、長年傍にいるせいか激しく情熱的なお互いの感情は今やまったく姿を見せなくなったのは悲しいかな事実でもあるけど。

見えない溜め息を吐くと、轟音と共に船が激しく揺れた。


「船長!!2時の方角から軍艦です!」
「分かった」


扉越しのやりとり。返事をしても本を閉じる様子は微塵もなし。
こんなふうに突然の敵襲も充分刺激的だけどもっと愛のある、女にとって幸せな刺激が私は今すっごく欲しい。



「ねー別に穏やかな関係が悪いとは思ってないけど」
「ああ」
「たまには何ていうかこう・・・あってもいい気がするの」

返事を待たずに、ねえ、と短く呼び掛けて手の甲を見せる。
どこかの貴婦人みたいに出来る限り指先をしなやかに伸ばして、なんだか自分で笑いそうになるけど。


どうぞ私の右手をとって
をしませんか



「ローは最近私に恋してる?」
「愛してる」

呆れながら、でも笑って本を閉じたローは貴婦人もどきの手を取って強く握り締めてくれた。一方私はその絶妙な返しに思わぬ刺激を食らい、唇をぶつけてきたローの顔を視界いっぱいに映したまま静止。
遠くのほうでは、あの船は中将のナントカだーって野太い叫びが飛び交う。
ああ、やばい。今以上に刺激的なシチュエーションなんてないかも。


thanks/絶頂
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