急な呼び出しで指定されたのは、とある島にあるリゾートホテル。
奴の姿をプールサイドのガゼボで見つけ、その広々とした場所を埋めるように隣にはゴージャスな女の子を置きドリンクをご満悦に傾ける仕草が、妙に腹立たしい。ふらり出ていったかと思えばまたふらり戻ってきて、不在の間の事業を誰が代わりに見ていたと思ってるのか。私だ。


「どこの国の王様?随分素敵な女性を連れてるのね」

向かいのチェアに腰を沈めながら外したサングラスを、派手なシャツ目掛けて放り投げる。するとその口元の歪みは一層深くなった。


「フッフッフ・・・お前こそ、どこの女王だ?こちらの可愛い姫君が怯えちまうじゃねェか」


そう隣の姫君を抱き寄せる王様。女王と呼ばれた私は「この男、本当馬鹿よね」の意味を込めて姫君に肩を竦めてアイコンタクトを送った。
くだらないやり取りもそこそこに、不在中起きたいくつかの出来事を報告したって、いつの間にかまたくだらない言い合いになるからもう頭が痛い。


「だからシャボンディの売上をこっちに回して・・・ねえ、聞いてる?聞いてないよね。あーもーそのまま消えればいいのに」
「おれがいなくなったらお前は寂しくて泣くだろう?」
「そこまで女の子らしく見てくれてるだなんて光栄。でも安心して、爽快で笑い転げるから」


昔からこう。
何にも縛られず自由に生きるこの男は、海賊としての能力もビジネスの才能にも長け、常に時代の先を読み、今するべきことを決断し行動を起こしていく聡明な頭脳を持った現実主義者。
時に一緒に高笑いをし、口を挟み挟まれ喧嘩を繰り広げ、それはもうずっと幼い頃から続けてきた。

そう考えるといつだったろう。この男と一線を越えたのは。
今まで何百人とのツーショットをこうして眺めてきたけれど、それは私から見れば日替りで付けるセンスの良いアクセサリーと同じで特別な疑問も不安も湧かない。むしろノンアクセサリーのときのほうが疑問に思ってしまうくらい。
だけど。いくら肩を抱き寄せようと耳元で何かを囁こうとも、その先には絶対に進まないことを分かっている。加えて悪魔の能力も私にはおふざけでさえ絶対に使わないなんて、この男にしてみたら信じられないくらい律儀で可愛らしい。口にしたら何が起こるか分からないから、言わないけど。


「さあ、機嫌直せ」
「あのね。誰が損ねたと思ってんの」
「そう突っ掛かってくれるなよ。褒美と言っちゃァ何だが、此処の最上級を押さえておいた」

そろそろ部屋で2人きり、この愛について語り合おうじゃねェか。
私が放り投げたサングラスを指先で弄び、お決まりの表情を崩さずに立ち上がる。
広々とした場所に取り残された姫君に、最初と同じ意味で肩を竦めてみせた。

愛されてる実感なんてそうそう湧くものじゃないけど、日替わりでなく永遠に隣にいるのは間違いなく私だろう。
他人を蹴落とし伸し上がっていく術は知っていても、お互いの存在無くして生きていける術なんて私もこいつも知らないから。

私たち、本当馬鹿よね。


クイーンとキング
最初に消えるのはどっちかな?
それとも一緒に消えるかい?


thanks/空想アリア
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