この男が宝を持って此処へ訪れるのは今日で連続3日目。私がそれを受け取り、鑑定し、値を決めて買い取るのも連続3日目。


「なあ!おれたちの宴におまえも来いよ!」
「今日のは200万ベリー。それで良いならサインして」
「その前に、」
「換金するの!?しないの!?さっさと決めて」


初めて会った日からずっとこの調子。呑みに行こうぜだの島を案内してくれだの、何かにつけて絡んでくる。虚しくなるからあまり言いたくないけれど、もちろん自分が特別な美貌を兼ね備えているというわけではない。
海賊なんて海上生活で女に餓えた女好きで、誰彼構わず声を掛ける生き物。
慌てて承諾書にペンを走らせる男の手元を見ながら深い溜め息をついた。


「そうだ、これも」
「まだあったの?一度に出してよまったく・・・」
「いやそうじゃねェ。おれから、おまえに。ははっ」


差し出されたのは見事なカッティングを施された上質のルビー。
ピジョン・ブラッドと言われる深い赤が力強くかつ妖艶に輝き、光り物を見慣れている私でさえ思わず息を呑む美しさ。


「・・・私にプレゼントしたら、換金されるとか考えないわけ?」
「構わねェさ」
「なにそれ、いらない」
「ちょっ、おいおい待ってくれよ!受け取ってくれって」
「どうせ略奪したやつでしょ。そんな物も、それを換金したお金もいらない」


この仕事柄あんた達みたいな輩とはよく接するけれど、本当うんざりなのどいつもこいつも分からず屋で強引でオマケにしつこくて馬鹿で、とにかくタチが悪い。あんたみたいにね。例えそのルビーが立派な冒険で見つけた物だとしても、日々汚れたことをしてる世の中のはみ出し者から欲しいものなんて何もないわ。

淡々と拒絶の言葉を述べた。
一見キツすぎるかと思うこんな台詞だって、ぶつける相手が海賊じゃ大して意味を持たない。


「へェそうか〜。んじゃ良いこと思い付いた。教えてくれてありがとな!」


ほらね全っ然分かってない!
満面の笑みで「今日の所は帰るけどまた来るからな」と告げる姿に怒りを通り越して冷酷な呆れ笑いが零れた。
ああ、本当疲れる。まともに相手するもんじゃない。いつになったら、あと何人の海賊をこなしたら上手く扱えるようになるのだろう。
私の仕事の悩みはそれだけ。

翌日現れたのは赤髪の男ではなく、奴が初日に連れていた仲間。ウェーブがかった長髪を後ろに束ねて煙草をくわえた姿は、奴よりずっと落ち着いた雰囲気が出ていた。


「うちの大頭が連日悪かったな」
「まさか今日は来ないでしょうね」
「はっ、相当嫌われてるな。今日は現れねェから安心してくれ」
「良かった・・・!」
「でもな。アンタに振られたからか奇行に走っちまった」
「え?」
「まァ仕事終わってからでも覗いてみてくれ。おれ達にゃ奇行以外のなんでもねェが、当の本人はアンタの為にって大真面目だ」


苦笑いで渡してきた小さな紙を広げてみると、この街の外れで営業している酒場の名前。数ある疑問を投げようと顔を上げた時には、男の姿は既に消えていた。

一連の出来事にあまり良い予感はしなかったから仕事を終えても何も見てない、知らない振りをして帰宅。だけどどうにも気になってしまい、考えては胸の奥が霧がかったような感覚になり。

気付いたら私の足は酒場に向いていた。

店のずっと手前から聞こえてくる野太いはしゃぎ声。離れたところから様子を伺うと、たった1本しかない腕を駆使してビールジョッキを幾つも掴みテーブル席に持って行ったかと思えば、次は大量の骨付き肉が積み上げられた巨皿をまた別の席に運んだり、慌ただしく店内を駆け回る従業員と化したあいつの姿。


「ギャハハハハ!!頭ァ!こっちにも酒追加よろしく!!」
「頭こっちもだ!樽で頼む!!」
「なんてザマだ頭ァ!!笑いすぎて腹痛ェ!」
「しかしなんだってこんなになっちまったんだよ〜!!」
「頭ァ早く酒持ってきてくれ!!あと肉も追加だ!!」
「アレだ、換金所の女に“汚れた宝はいらねェ”ってこっぴどく言われたらしいぜ!!!」
「ギャハハハ!!で、全うに稼ごうってわけか!!」
「威厳がなくなるぜお頭よォ!!」

「お前らな〜うるせェんだよ!いいから黙って呑みやがれ!」

「「「ギャハハハ!!!!」」」


胸の奥にあった霧は晴れ、柔らかい陽射しが注ぎ込んできたかのように温かくなった。また思わず零れた呆れ笑いは、昨日のものと真逆の種類。

次に男が私の前に現れたのは、それから5日経った日。ログが溜まった、もう出航すると口にして。


「そう、良かった。それで最後の品は?」
「これだ」

ルビーのときと同じような仕草で漆黒の羽織から伸びてきた腕。ケースを開けてみると、ターコイズのピアスが顔を見せた。と言ってもターコイズに見せかけたイミテーション物。数日酒場で働いたくらいじゃこれが精一杯だろう。


「聞いてくれ、あれからちゃんと「これは換金なんて出来ない。私が個人的に頂くわ」


心からの笑顔を初めて披露した。予想外の流れに一瞬戸惑った男だけどすぐに無邪気な子供のような、大きな笑みを見せる。


「おれが好きな海の色なんだ」
「すごく綺麗よ、ありがとう。大切にする」


愛や恋には程遠い。
だけど私は一生忘れないだろう。
分からず屋で強引でオマケにしつこくて馬鹿で、まっすぐな心を持った海賊の彼を。


Notre Moment
(私達のひととき)



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