私は政府関係の仕事をしてる、とまでしか教えていなかった付き合いたての恋人に、そのなかでも自分は人を殺したりもする諜報部員だということを告白したのは3分前。顔面蒼白で逃げられたのはその直後。嘘は大嫌いだしありのままの私を愛して欲しいし、だから毎回勇気を出して本当のことを言うのに“そんな君でも構わない”なんて言ってくれる男は1人もいなかった。ついでに今日使ったマスカラがウォータープルーフだっていうのも、あれ絶対嘘だ。

「酷い顔だな」
「・・・なんでいるの」
「真実を言ってどうする。逃げられるに決まってるだろう?バカヤロウ」

そしたらいつまでたっても、偽物の恋しか出来ないじゃない。それがこの世界に身を置く者の運命だと言われればそれまでだけど、私だって人間だ。ただ愛に満たされたい、たったそれだけ。多くは望んでいないはずなのにどうして。


「あーもーやだ!」

なんでいつもこうなの!?と何かが吹っ切れたようにグシャグシャな顔を上げて叫ぶと、私を嘲笑うルッチが視界の隅に映った。何が可笑しいの、バカにしに来たなら帰れって言ったらこの男なんて言ったと思う?「いや、くだらねえなと思って」・・・・・・殺意が湧いたけど今は構ってる場合じゃない。
失恋の悲しさで心臓が圧迫されて死んでしまいそう。あと何回こんな想いをすれば、愛を知ることが出来るのか。もしかして、こんな想いだけして知ることが出来ないまま年老いていくのかもしれない。
ああもう人生最悪だ。

涙の理由が失恋の悲しみから、孤独な人生への悲しみに変わってわんわん泣き喚いていると、乱暴に頭に腕を回される。いい加減にしろ、と罵られるのかと思い反射的に恐怖を抱いたのに。


「俺はお前を愛している」


慰めるように呟いて、これまた乱暴にがしがしと髪を掻き乱す行動に驚いたけれど恋人でもない男が投げたその言葉に何かを感じた。家族なんていないから分からない。でも、もし私にパパやママがいたらこんな感じなのかな。
そういえば、こんな日は決まって誰かが支えてくれた。いつかのクマドリとフクロウは傷心中の私に代わって任務に行ってくれた。カリファはいつも「そんな男に貴女は勿体ないわ」と励ましてくれる。いつかのジャブラは八つ当たりの相手になってくれて、カクは美味しいものを食べに連れて行ってくれた。近すぎず、かといって遠く離れすぎず何かあれば例え言葉はなくても、皆必ず力になってくれた。そんなときは今みたいに見えない何かに包み込まれている感覚で、不思議と悲しみが緩和するんだ。



「もしかして・・・これが本当の愛ってやつなの?」
「そうだ。帰るぞ」


即座に言いきって立ち上がる背中を見て、これがずっと私が欲しがっていたものなんだと漸く気付いた。そして何が本当なのかも。

なんの見返りも求めない。
無償で与えてくれる。
無償で注いでくれる。
ルッチや皆がくれるような本物を持った人は、いつか現れるかな。





考え方は人それぞれ。
あなたの本物は、どういうもの?
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