※if設定あり
「ロシナンテー」
「んん?」
「もうすぐ誕生日だけど、何が欲しい?」
「うーん何もいらねェ」
定番の贈り物はすべてネタ切れ。困ったものだ。長年寄り添っている夫婦らはいったいこのイベントをどう乗り切っているのだろうか。
どうせなら欲しがっているものをプレゼントしたいと思い直球で聞いたものの、戻ってくるのは愛想のない返事ばかり。私はただロシナンテの喜ぶ顔が見たいだけなのに。彼なりの気遣いだと分かっていても、なんだか寂しくなってしまう。
数日頭を悩ませ、旅行あたりが身も心も休まって豪華感もあるという結論に落ち着いた。ただ、それだけではやはり気が済まずプラスワンのプレゼントを考えに考え抜いて最高のプレゼントを準備することにしたのだ。
誕生日当日、私たちは休暇を取り群島国家のとある島に来ていた。
白い砂浜、海も穏やかで美しく上からほんの少し覗くだけでトロピカルフィッシュが優雅に泳いでいる、そして何よりも魅力的なのは、住民も公共施設等もなく島がまるごとゲストだけのリゾート地だというところ。
水上ヴィラにチェックインをすると、ロシナンテは飛び上がらんばかりに喜びをあらわにした。
「すっげェな!見てみろ、ここから魚が見えるぞ!」
「わあ、ほんとだ!キレイ!」
ひととおり景色を眺めてはしゃぎ、ここは天国だね!と花びらが散りばめられたベッドに二人でダイブ。最高のプレゼントだと満足げに呟いたロシナンテは私の髪に何度も唇を落とすから、まだこれで終わりじゃないよ、その言葉を精一杯飲み込んできつく抱きしめ返した。最高のロケーションと大好きな彼の存在に私のほうがプレゼントをもらった気分になってしまう。
日中はアクティビティを満喫。サンセットを眺めた後、波の音が心地よく響く砂浜にテーブルセッティングされたレストランで誕生日ディナーを食す。
「ロシナンテ」
「ん?」
「もうひとつ、プレゼントがあるの」
食事の手を止め、不思議顔でこちらを見ているロシナンテに「後ろを見てごらん」そう意味を込めて目配せをする。
私たちの視線の先には、穏やかで照れくさそうな表情の一人の青年が、部下も愛刀も持たずに立っていた。
ロシナンテにとっては懐かしく、そして愛おしい存在であろう海賊の彼。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「いったい何の冗談だ」
「ロシナンテを喜ばせたくって」
「海兵がそんなこと・・・世も末だな」
「海兵も何も関係ない。ロシナンテに最高のプレゼントをしたいだけ。喜ぶ顔が見たいだけ。お願い、来てよ。あなたに会えればきっと喜ぶ」
「・・・コラさんにはコラさんの立場がある。恩人で大切な人には変わりねェが海賊と海兵だ。そんな簡単に会えるわけねェだろ」
「そんな面倒なこと考えないでよ。あなたは会いたくないの?」
「・・・・・・」
「7月15日の夕刻、この島に来て。私たちと島で働くスタッフしかいない。海軍の心配はしないで、全部根回ししておくから誰にも手出しはさせない。約束する」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「久しぶりだな、コラさん」
「・・・ローおまえ・・・いったい何で、」
「今日誕生日だろ?会いにきた」
「・・・!!」
勢いよく立ち上がってちらりと私を見るから、頬を緩めながら首を縦に振る。
彼が最も喜ぶプレゼントはこれ以外何も考えられなかった。
息子のような兄弟のような。尊くて愛おしいであろう彼の存在は、ロシナンテに涙混じりの最高の笑顔を咲かせてくれた。
We have the right
to love someone freely.
誰しもが自由に愛する権利を有す
thanks/空橙