誰も知らない星に幸せを願う今夜、きっと素敵な夢を見る
灯りを消したばかりの部屋に瞳がまだ慣れない。私たちはひとつのシーツに包まりながらこの闇に身を置き、楽しいお喋りを繰り広げるんだ。それはもう愉快なものになるだろう。
「なんか喋って」
「おれは眠いんだ」
期待はわずか5秒で闇に呑まれた。
女という生き物はお喋りだなんて言葉を最初に言った人は、きっとローみたいな男に違いない。
あなたが喋らないなら私が喋る。自由にね。ローの腕を枕にした頭の中でそんなことを思いながら、ひとりのお喋りを始めた。
「きょう日焼け止め塗るの忘れて、ずっと甲板でシャチと話してたら肩がヒリヒリする」
言うと無言で肩をつねる指先。
やめてよ、笑ってクレームを入れるとすぐに手は引っ込められ、良かったような寂しいような何とも言い難い気持ちになるも、お喋りはやめない。
「明日の夜には島に着くってベポが言ってた。どんな島かな」
「そういえばこの間の島で会ったあのおじいさん、新聞に載ってたよ!すごく有名な人らしい」
「次はどんな面白い人に会えるかな、楽しみ」
「すっごい数の人がいるのにローと出会って一緒にいるって奇跡だよね」
ネタ切れ、そして睡魔。寝つきの良い体質に感謝しなくては。
ぼんやりしてきた頭で単純な自分に呆れていると、ローが小さく呟いた。
「運命って言葉知ってるか?」
やっと口を開いたかと思えば。
抱き寄せる腕はぬくもりを持っていて、強く、優しい。
私はこれまで幸せを求めることなんて滅多になかった。否定をしていたのではなく、いつでも満たされていたからだ。
それが今日、生まれて初めて。こんなきっかけは他人から見れば些細なことだと思うかもしれない。
それでも私は見えない未来、この人ともっと幸せに在りたいなんて感情が芽生えてしまう。
前髪にやわらかく落ちてきた感触を合図に、そっと意識を手放した。
thanks/誰そ彼